大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について(1)

2021-06-02 15:12:16 | 日記
                           
本年初めから4回にわたって開催されてきた「筆界認定の在り方に関する検討会」の法コック所(「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」)がまとめられた、ということで「登記情報」誌715(2021.6)号に、法務省民事局民事第2課によってその「概要」が紹介されています。皆さん、まずは、「報告書」現物を読んでみてください。
「筆界認定の在り方」については、同誌巻頭の「法窓一言」(田中地図企画官)のタイトルが「隣地所有者不明土地の筆界認定の在り方」であるように、「土地」を取り巻く状況の大きな変化への対処方法をも含めて重要な問題としてあります。それは、時代が大きく変わってきていることに対して「登記制度」がどのように対応していけるのか、ということを問う重要な問題とも言えます。
その重要さを共有する者として、今後何回かにわたって、この「検討報告書」について、私の考えるところを述べることにします。

この「報告書」は、「本文」と「資料」とで構成されています。「本報告書は、基本的な考え方を整理した「本文」と、その考え方に基づいてより実務的に代表的なケースを類型的に整理した「資料」とに分かれている。」(「登記情報」誌での法務省民事局民事第2課の解説)と言われるように、「本文」は「総論」、「資料」は「各論」とも言えます。
その「報告書」についての私の受け止めを初めに結論的に言いますと、「基本的な考え方」=「本文」ではとても良い内容がしめされていてその積極的意義を高く評価したいと思うのですが、「実務的」整理=「資料」には様々な疑問があってこのままでは一向に事態は改善せず、時代に取り残されてしまうというか、変化する社会に役立つものになりえないのではないかと危惧してしまう、というものです。「総論賛成・各論反対」みたいな言い方になりますが、これは私がそうなのではなく、「検討報告書」自体がそのようなものになっている、ということです。「総論」で言ったことが「各論」で十分に表現されておらず、むしろ「基本的な考え方」を実現できないような形で「実務的整理」が展開される、という形になってしまっている、ということなのだろうと思います。これでは、「総論」の高い意義も台無しになってしまい、とても残念に思います。

1.「本文」部分について
(1) 結論の妥当性
この検討会における主な検討課題は「筆界確認情報作成・提供」が広く求められている、という「現状」認識の上で、「筆界確認情報作成・提供」の要否、というところに置かれていたと言えます。
その部分について「報告書」は、次のようにしています。
「筆界関係登記の申請に際して幅広く筆界確認情報の提供等を求める登記実務上の取扱いについては,現在の社会情勢を踏まえつつ合理的な範囲に絞り込むことが必要であると考えられる。」(第2-3)
「筆界に関する登記所保管資料や筆界に関する現況等に鑑みれば筆界は明確であるといい得る場合にまで,一律に筆界確認情報の提供等を求めることには、少なくとも不動産登記の審査の観点からは合理的な理由に乏しいといわざるを得ないと考えられるため,筆界確認情報の提供等を不要とするべきであると考えられる。」(第2-3)

きわめて妥当な考え方だと言えます。このような考え方は、私の業務地である大分(九州)において既に取られてきたところだとは思うのですが、全国的には必ずしもそうではなかったようですので、全国的にこの考え方を確認する、ということには意義がある、と言うべきでしょう。
このような考えを導くにあたっては、ごく原則的なこと、基本的なことが改めて確認されています。とても重要な論点だと思いますので、どのように言われているのかをあらためて見ておきたいと思います。
まず
「登記官が調査すべき筆界は,国家が行政作用により定めた公法上のものであって,関係する土地の所有者がその合意によって処分することができないものである」第2-1)

という、ごくごく基本的なことを確認したうえで、
「所有権界が筆界形成当時の位置を大きく外れるという事態は例外的なものであり、原則的には所有権界と筆界は一致するものと考えられ、土地の所有権の登記名義人の境界に関する認識が結果的に筆界を示していることが少なくない。」(第2-3)

として、「筆界確認情報」が重要視されている理由を明らかにしつつ、他方
「筆界の創設から一世紀以上経過していることや筆界確認情報が当事者の認識に依拠する人証であることを考慮すると,筆界確認情報を筆界の調査・認定の資料とするとしてもその信頼性については適切に評価をすることが必要である。」(第2-3)

とします。このことから、
「資料として採用する場合であっても、当該情報のみに依拠することは必ずしも相当でなく、筆界の認定は、他の筆界の認定の資料を総合考慮した上で行うべきである。」(第2-3)

ということになるわけです。「筆界確認情報」は無前提に重要視されるべきものではなく、あくまでも客観的資料の検討の上で、筆界認定の資料として利用する場合もある、という程度の位置づけをするべきであるということが明らかにされています。
このような基本的な認識はとても重要なことであり、この上で具体的な検討を進めることが必要であり、具体的な検討の中では常にこの基本的な視点に立ち返りながら考えていくことが必要なのだと思います。
また、現実的に大きな問題となる「隣接地が共有地であるとか複数人への相続が発生している場合」における「筆界確認情報」についても
「筆界が明確でないために筆界確認情報の提供等を求めることに理由があるとみられるケースについても、その作成主体となり得る者が複数であるときには,登記官において筆界に関する心証形成を図ることができる限度で筆界確認情報の提供等を受ければよく、一律に、例えば全ての共有登記名義人から筆界確認情報の提供を受ける必要はないものと考えられる。」

ということを明確にしており、(これもまた従来からそういう取り扱いだったのではないかとも思いつつ、何はともあれ明確にしたことは)大変よろしいことだと思います。

(2)土地家屋調査士の責務
このように報告書案の「本文」において示されている方針は妥当なものであり、この方針に基づいて今後の登記実務の中における筆界認定が進むことを期待するものです。
その点に関して、「本文」は、その最後に次のように言っています。
「現地復元性を備えた信頼性のある資料が存する場合を除いて筆界の調査・認定にはそもそも相当な困難性を伴う作業であることを踏まえると、ここに示された筆界の調査・認定の在り方の方向性は登記所職員の負担をこれまでよりも増加させるものと考えられるが、登記実務上の課題の解決に向けて積極的に対応することが望まれる。」

このように、最後に「登記官の責務」が説かれているわけで、それはそれで確かにその通りではあるのですが、筆界認定の現実的なありかたを踏まえると、いささか一面的なまとめ方であるようにも思えてしまいます。
と言うのは、「筆界認定」ということの具体的なあり方を考えると、それは登記官が自ら積極的に調査を行って認定をする、という形を取っているものではありません。
「筆界関係登記の申請の審査において、登記官は、当該申請に係る土地の筆界の全てについて、申請情報に併せて提供される地積測量図に記録された筆界の位置及び形状に誤りがないことを調査することとなる。」(第2-1)

と言われているとおり、登記官の調査・認定というものは申請を受けて行うものであり、その申請にあたって登記官が調査・認定を行うための情報(資料)の提供がなされているのでなければ、そもそも調査・認定を進めることができないものとしてあるからです。
そして、そのような情報(資料)の提供を行うべき者として土地家屋調査士があります。土地家屋調査士は「筆界を明らかにする業務の専門家」として筆界関係登記の申請にあたって筆界の位置に関する情報を地積測量図に表示して提供するとともに、不動産登記規則93条調査報告書において申請に係る筆界をどのように確認したのかを報告することになっています。登記官の「調査・認定」は、この報告を受けて、言わばその内容に「誤りがないことを調査する」というのが、現実の在り方です。
したがって、もしも土地家屋調査士が、今後も相変わらず「筆界確認情報」に頼った形での申請内容しか提供しないのであれば、いくら登記官が「積極的に対応」しようとしても現実には一歩も進まないことになってしまいます。まず「積極的対応」をしなければならないのは土地家屋調査士である、ということを肝に銘じなければなりません。
そのような責務を踏まえつつ、現実的に「筆界確認情報」に頼り切らない筆界認定がなされるようにするためには、どのような場合に「筆界が明らか」と言え(て「筆界確認情報」の提供が不要と言え)るのか、ということが、具体的に検討される必要があります。
それが、「資料」部分で示される形になっているわけですが、残念ながら、それが十分にできていない、と言うか、それ以上に逆方向に向くようなことにさえなってしまっているように思えます。次回以降、詳しく考えていきたいと思います。。

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