大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について⑥(とりあえず完)

2021-06-23 08:51:57 | 日記
これまで5回にわたって「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」特にその「資料」部分について批判的にみてきました。
長々と書いてきたのは、この「資料」部分に基づいて「筆界認定」を行うようにしたのではとんでもないことになってしまう、と思うからです。日調連から6月4日に出された「お知らせ」によれば、「登記実務における筆界確認情報の取扱いにつきましては、現段階では令和4年度からの運用を目途とすること」とされているそうです。
来年4月からどのように変わるのか?
「検討報告書(本文)」が示すように「筆界関係登記の申請に際して幅広く筆界確認情報の提供を求める登記実務上の取り扱いについては、現在の社会情勢を踏まえつつ合理的な範囲に絞り込む」「筆界に関する登記所保管資料や筆界に関する現況等に鑑みれば筆界は明確であると言いうる場合にまで、一律に筆界確認情報の提供を求めることには、少なくとも不動産登記の審査の観点からは合理的な理由に乏しいと言わざるを得ないと考えられるため、筆界確認情報の提供等を不要とするべき」という方針が実際に貫かれることを期待しています。
しかし他方、「資料」部分に示される「筆界が明確であると認められるための要件について」を見ると、「筆界は明確であると言いうる場合」と判断されるものは、現状よりも多くなるとはとても思えません。むしろ少なくなってしまうのではないか、後退してしまうのではないか、とさえ危惧されます。
そのようなことは、登記制度そのものが「現在の社会情勢」に適合しない、取り残されたものになってしまうことを意味すると思えます。また、「資料」の内容を見ると、「筆界認定の実務」についての基本的な理解の部分における誤解があるようにも思えます。そこで、実務家として指摘するべきことはしておかなければいけない、と思い、非常に基本的なことにまで立ち返っての長々しいものを書いてきたわけです。
さて、その上で。
では、どのように「筆界が明確であると認められるための要件について」考えるべきなのか、ということについて、私が起案するとしたら、どんな風に起案するのか、というものを書いて見ます。これについても未整理なものであることには変わりないのですが、このようなものをベースにして、さらに「筆界を明らかにする業務の専門」性を集めた集合知により具体的に詰めていければ、と思って提起するものです。


筆界認定というのは、過去において設定・認定された筆界について、当該筆界に関する土地にかかる登記手続を行うのにあたって、その位置を明らかにするものとして認定し、登記手続の中で公示する作用である。
現在では、筆界は「二以上の点及びこれらを結ぶ直線」(点・線)(不登法123条1号)として存在するものとされている。地租改正の過程で設定されたいわゆる原始筆界は、「点・線」の形ではなく幅を持つものであったと考えられるが、今日では原始筆界についても「点・線」として認定することとなる。この原始筆界の中でも、すでに境界確定訴訟の確定判決を得て「点・線」のかたちで確定しているものや登記制度の歴史の中で「点・線」のかたちで認定され公示されているものがある。また、分筆によって創設されたり、区画整理などによって再編成されたものも「点・線」のかたちで設定され公示されている。
このように、過去において「点・線」での設定、認定のされた筆界については、その設定、認定された結果を表示する資料が作成され、その多くは公開(公示)されている。したがって、その資料によって筆界の位置を特定することができるのであれば、それによって「筆界認定」をなしうるということになる。これが、「筆界認定」の基本である。
しかしながら、従来は、筆界の位置を「点・線」の形で特定するに足る資料は必ずしも多くなかった。このため、筆界について最もよく知る蓋然性の高い土地所有者から「筆界確認情報」を得て、それによって「筆界認定」を行ってきた、という歴史的経緯がある。
しかし、その「土地所有者が最も筆界について知るであろう」という期待は、社会情勢の変化の中で成り立たなくなってきている。所有者不明土地の増大はそれを示すものである。他方、筆界の位置を「点・線」の形で特定するに足る資料は増加しており、技術的な進化も相まって、必ずしも「筆界確認情報」に頼らなくても、本来の形で「筆界認定」をなしうる可能性が拡がってきている。
そのような状況を受けて、「筆界認定」の在り方を再検討する必要がある。

〔結論〕
筆界に関する登記手続を行うなかでの筆界認定は、下記のようにして行うべきものとしてある。
1.〈本則〉過去において筆界を設定・認定したことを表示した現地特定機能を有する資料(情報)に表示された筆界は、所要の検証を経て、筆界が明らかであるものとして認定することができる。
2.〈補助的措置〉過去において筆界を設定・認定したことを表示した現地特定機能を有する資料(情報)が十分に存在しない場合には、公図、現地の状況等踏まえて、相互に隣接する土地の所有者の筆界位置に関する認識の一致を示す情報(「筆界確認情報」)を得て、筆界の位置を認定することができる。

〔詳細〕
「1.」について
(1)資料(情報)について
1)過去において筆界を設定・認定したことを表示した資料(情報)とは何か
 筆界が明らかであると認められるのは、過去において筆界を設定・認定した事実があるからである。この過去における筆界設定・認定の際には、筆界の位置を表示する資料が作成されている。
 具体的には次のものがある
①境界確定訴訟の確定判決
②筆界特定書
③不登法14条1項地図
④地積測量図
 これらの資料は、その性格から正しい(筆界の正しい位置を表示している)ことの蓋然性が認められるものとしてある(信頼性ある資料)。
 したがって、これらの資料によって筆界の位置が「点・線」として特定しうる場合には、基本的にこれらの資料に表示された筆界は明らかなものと認めることができる。
2)現地特定機能を有する資料(情報)はどのようなものとしてあるか
 筆界が明らかであると認められるのは、当該資料に基づいて筆界の位置が「点・線」のかたちで特定することができる場合である。当該資料の現地特定機能が必要となる。
 資料の現地特定機能は、資料の形式により強弱があるものと言える。
①当該資料単独で筆界の位置を「点・線」として特定しうる資料=公共座標(世界測地系)の座標値によって表示されている資料(例示)
イ) 座標値の種別が「測量成果」である14条1項地図(不登規則14条1項、2項)
ロ) 2005年以降の地積測量図(不登規則77条1項7号本則)
②現地に測量の基点が現存していることによって筆界の位置を「点・線」として特定しうる資料=任意座標や位置関係を距離・角度によって表示している資料(例示)
イ) 1993年以降の地積測量図(不登規則77条1項7号括弧書き)
③資料の数値情報としては「点・線」として特定できず一定の幅をもたざるをえないが、図面情報や現地の境界標、工作物などの状況と合わせることによって「点・線」としての特定が可能となる資料(例示)
イ) 座標種別が「図解法」である14条1項地図。当該座標値の現地指示点に対して一定の範囲内に境界標や筆界を徴表する工作物が存在する場合(「一定の範囲」について、地域、当該資料の作成時期に応じて基準を設ける必要があるだろう。以下同。)
ロ) 三斜の地積測量図の表示する図(形)、地積、距離などの数値と一定の範囲内で合致する位置に境界標や筆界を徴表する工作物が存在する場合

(2)検証
資料に表示された筆界の位置については、所要の検証を行うべきものとしてある。
この検証は、資料の性格から、筆界の正しい位置を表示していることの蓋然性が認められる、ということの上で行うものである。正しい蓋然性が高いとはいえ、絶対に正しいと言えるわけではないので検証が必要になる、ということである。そのようなものであることから、この検証は資料に表示された筆界の位置が誤っていないことを確認する、という性格を持つものであり、正しさを積極的に証明しなければならない、というものではない。具体的には次のことがなされるべきである。
① 他の資料との対照
イ) 公図との対照
ロ) 当該一筆の土地と隣接する土地に関する資料との対照
相違のある場合、それが許容範囲内であるか否か。否である場合、どちらを採用すべきか。
② 現地復元-現地の状況との対照
イ) 境界標 資料の表示点(復元点)と現地の境界標とが一致すればその位置をもって筆界と判断できる。一致しない位置に境界標のある場合、許容しうる程度の相違か?資料の表示点と現地の境界標のどちらの位置が正しいのか?などを、筆界の性格(原始筆界、創設筆界)、資料の性格、境界標設置の経緯、現地の地域特性等を踏まえて判断する必要がある
Ex. 次のような諸ケースについて「筆界認定」のありかたを類型化・整理する必要がある
資料の表示と現地の境界標位置が相違する場合
 資料表示が先で現地境界標が後=資料表示が正が原則だが〈創設筆界・原始筆界〉〈市街地
地域・山林・原野地域〉〈資料作成時期、作成者等〉により判断する必要もあり
 現地境界標が先で資料表示は後=測量の誤りの可能性・・・etc.
ロ) 工作物 工作物自体は筆界の位置を表示することを主目的として設置されたものとは限らないが、当事者の筆界認識に基づいて工作物が築造・設置されている場合が多い。このような工作物は、筆界を徴表するものと言える。資料の表示点(復元点)と工作物の位置が合致する場合には、その位置をもって筆界と判断できる。一致しない場合の判断は、境界標の場合に準ずる判断。

「2」について
 筆界は、筆界特定手続に関する規定の中で「登記記録、地図又は地図に準ずる図面及び登記簿の附属書類の内容、対象土地及び関係土地の地形、地目、面積及び形状並びに工作物、囲障又は境界標の有無その他の状況及びこれらの設置の経緯その他の事情を総合的に考慮」してその位置を特定するものとされている(不登法143条1項)。しかし、「1」のような資料が存在しない場合、筆界の位置を一定の幅を持つものから「点・線」へと絞り込むことには、一般に多大な時間と経費を要する作業が必要となる。
土地の一般的な利用と取引という社会・経済的な要求にこたえる必要のある一般的な登記手続においては、より簡便な方法で筆界位置の特定をなしうるのであれば、それを採る必要がある。そのようなものとして、その土地の歴史的経緯を最もよく知りうる立場にあるとともに筆界の位置に最も大きな利害関係を有する者である、相隣接する土地所有者の筆界位置に関する認識の一致がある場合には、その認識(「筆界確認情報」)に依拠して筆界の位置を認定することができるものとすることが適当であり、現にこれまでそのように取り扱われてきた。
この場合、筆界の位置についてはあくまでも「相隣者間において境界を定めた事実があっても,これによって,その一筆の土地の境界自体は変動しない」(昭和31年12月28日当裁判所第二小法廷判決)ものであることを踏まえて、上記諸事項により一定の幅に絞り込んだうえで、その範囲内において土地所有者の認識の一致のあることが必要である。
なお、筆界特定制度13年余の知見によって、高精度の公図や現地地物の存在によって「1」の資料がない場合においても筆界の位置を「点・線」に絞り込める場合のあることも明らかになっていると思われるので、そのような場合には知見を活かした筆界認定をおこなうべきである。

・・・以上です。われながら出来のいいものとは言い難いのですが(もっと詰めるべきことを保留にしていたり、必要以上に説明的になっていたり…)「筆界認定の在り方」を考えるうえでとりあえず必要だと思うことを挙げてみたものです。

以上で6回にわたって書いてきた「『筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書』について」をとりあえず終わります。「とりあえず」と未練たらしいことを言うのは、「きんざい」から「『筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書』の解説」という冊子が発行されて、より詳しく考えることができるようになったからです。A6判の小さい活字の冊子で、老人には読むことだけでも苦しいものですが、ざっと目を通して見て「新しい発見」もありましたので、それについて書くことにしようか、とも思っているところです。

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