大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について②

2021-06-03 09:29:08 | 日記
前回からの続きです

2.「資料」部分について
「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」は「本文」部分と「資料」部分に分かれています。その意味は、「基本的な考え方を整理した『本文』と、その考え方に基づいてより実務的に代表的なケースを類型的に整理した『資料』とに分かれている」ということだそうです(「登記情報」誌715(2021.6)号。法務省民事局民事第2課)。このような分け方は「総論」と「各論」と言っていいものなのだと思いますが、それが「資料」という名称でまとめられている、ということには、この部分については、まだまだ議論の余地があり、確定的なものではない、という意味が含まれているのかな、と思います。
これは、私のただの「希望的観測」かもしれません。なぜわたしがこのような「希望的観測」をするのか、と言うと、「資料」部分の内容は、あまりにも未整理で、内容的にも疑問の多くあるものだからです。この内容で確定させてしまうのではなく、その名の通り一つの「資料」として検討対象にして、内容の整理を行うべきだと思います。そのような意味を込めて、以下、私の考えるところを書くことにしたいと思います。(なお、「登記情報」誌715(2021.6)号の「概要」紹介では、「『資料』には、詳細な『補足説明』も付されているが、ここではその紹介を割愛する」とされていて、「割愛」された部分の多いものになっています。そこで、よく理解しにくいところもあるのですが、私の理解した範囲で考えるところを述べることにします)。

もう一度繰り返しますが、「本文」では
「筆界に登記所保管資料や筆界に関する現況等に鑑みれば筆界は明確であるといい得る場合にまで,一律に筆界確認情報の提供等を求めることには、少なくとも不動産登記の審査の観点からは合理的な理由に乏しいといわざるを得ないと考えられるため,筆界確認情報の提供等を不要とするべきであると考えられる。」(第2-3)

ということが言われていました。「筆界は明確であるといい得る場合に」は「筆界確認情報の提供等を不要とするべき」だ、ということです。
そうすると、どのような場合が「筆界は明確であるといい得る場合」なのか?ということが問題になります。「本文」では、次のように言われてもいました。
「筆界の調査・認定は、現地復元性を備えた信頼性のある資料が存在する場合を除き、相当な困難性を伴う作業である。」(第2-2)

たしかにその通りです。この「困難性」があるがゆえに「筆界確認情報」がないと筆界の認定をなしえない、とするケースもあった、ということであるわけです。しかし、ちょっと待ってください。ここで言われていることを裏返してみてみると「筆界の調査・認定」は「現地復元性を備えた信頼性のある資料が存在する場合」には、それほどの困難性があるわけではない、ということになります。なにしろその「資料」は「信頼性のある」ものであり「現地復元性を備え」ているわけですから、その資料に基づいて「筆界が明確であると認め」ることができるようになるわけです。
では、どのような資料があればいいのか?どのような資料をもって「現地復元性を備えた信頼性のある資料」とすることができるのか?ということが問題になります。それが「資料」において言われている、ということになります。

1)「現地復元性について」
「資料」の「1」として「現地復元性について」と題して次のことが言われています。
要約すると、①各筆界点についての測量成果による世界測地系の座標値、②各筆界点についての測量成果による任意座標系の座標値及び当該座標値を得るために行った測量の基点等(現存するもの)の情報、③各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物(現存するもの)との位置関係の情報、(なお、「検討報告」では、これらの情報を「復元基礎情報」と言っています)が「図面に記録されている場合には、理論上図面に図示された筆界を現地に復元することが可能であると考えられる」とされています。(本項末尾に全文引用しておきます。)
このような情報が図面に記録されている場合に、それを「現地復元性を備えた」資料だと言える、ということになる、ということです。
この点について、私にも異論はない、・・・と言いたいところなのですが、実は「現地復元性」ということをどのように捉えるべきか、という点において疑問があります。ただ、それをここで言いだすと話がややこしくなるだけなので、ここでは一つだけ言っておきたいと思います。
それは、上記②③の場合には「近傍の恒久的地物又は測量の基点となる点が現地に現存していることが条件となる」というように外的な「条件」がついている、ということです。つまり、その図面情報単体で、その図面情報の示す筆界位置を現地で明らかにできるわけではない、のです。この「図面情報」と「現地情報」という二つの要素によって「現地復元性」の程度に違いが出る、ということが重要なところです。たとえば、昭和40年代の三角形の底辺・高さの数値しか書いていないような三斜の地積測量図は、一般に「現地復元性のないもの」だととらえられるわけですが、そのようなものでも、現地に境界標があったり、ブロック塀があって、それらと図面の形状・寸法が合致するときには、その地積測量図には「筆界の現地復元(と言うか「指示」「特定」)性」がある、と言えることになります。問題は、技術的な現地復元性(だけ)の問題ではなく、あくまでも「筆界位置の現地復元性」なのだ、ということに注意をしておく必要があります。

[検討報告書・資料]原文
1 現地復元性について
「以下の(1)から(3)までに掲げるいずれかの情報が図面に記録されている場合には、理論上図面に図示された筆界を現地に復元することが可能であると考えられる。ただし、(2)及び(3)に掲げる場合には、近傍の恒久的地物又は測量の基点となる点が現地に現存していることが条件となる。
(1)筆界を構成する各筆界点についての測量成果による世界測地系の座標値
(2)筆界を構成する各筆界点についての測量成果による任意座標系の座標値及び当該座標値を得るために行った測量の基点の情報又は2点以上の各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物との位置関係の情報
(3)筆界を構成する各筆界点についての座標値の情報が記録されていない場合における、各筆界点に対する複数の近傍に存する恒久的な地物との位置関係の情報」


2)「筆界が明確であると認められる要件について」
これについても全文引用は本項末尾に置くものとして、私なりに要約しますと次のようになります。
まず、図面として挙げられているものは次のものです。
①「座標値の種別が測量成果である14条1項地図」、
②「筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図」、
③「筆界特定書及び筆界特定図面」、
④「判決書図面」(「復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている」もの、もしくは「囲障、側溝等の工作物の描画があり、それら囲障等に沿って筆界点が存するなど図面上において筆界点の位置が図示されている」もの)、
の4つの種類の図面が挙げられています。
これらの図面は、みな「筆界」を表示することを目的とするものと言え、いずれも信頼性のある機関が、相応の手続きを踏んで作成したり備え付けているものであるので、一般的に「信頼性のある」ものだと言える蓋然性が高いものとして挙げられている、ということなのだろうと思います。
私としては、ここで挙げられた4種の図面があれば、あれやこれやの条件を付けることなく、その図面情報の指示する位置を筆界であると認定しても差し支えないものなのだと思います。(もちろんその際に所要の検証を行うことが必要になるわけですが、それは別問題です。)そのように考えることが「本文」に言う「現在の社会情勢を踏まえつつ合理的な範囲に絞り込むこと」に結びつくのだと思うのですが、「検討報告書・資料」は、そのように単純には考えません。あれやこれやの条件を付けなくてはならない、としているのです。

まず、「地域区分」がなされます。「市街地地域」「山林・原野地域」「農耕地域」の三種の地域の別によって判断が異なることになるものとしています(もっとも「農耕地域」については、他の二つの「いずれかの要件を当てはめるべき」としていますので実質的には二区分ですが)。
上記4種の図面について、「筆界特定図面」だけは、「市街地域」でも「山林・原野地域」でも同じようにその示す位置を「筆界」と認めうるとするのに対して、「14条1項地図」「地積測量図」「判決書図面」については、「山林・原野地域」の場合には「当該情報に基づく表示点」を「筆界」と認めるべき、とされているのに対して、「市街地地域」の場合には、「公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存する」ことを条件とし、なおかつ「当該指示点」を「筆界」と認めるべき、しています。
これは、おかしい。詳しく考えることにします。

[検討報告書・資料]原文
「(1)市街地地域について
次のアからカに掲げるいずれかの点で構成される筆界は明確であると認めることができる。
ア 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合において、申請土地の筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点
イ 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合において、上記アの指示点が現地に存しないときにあっては、申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整して導き出した復元点
ウ 登記所に筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図の備付けがある場合において、当該情報に基づく表示点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点
エ 筆界特定登記官による筆界特定がされている場合において、当該筆界特定に係る筆界特定書及び筆界特定図面に記録された特定点を当該図面等の情報に基づき復元した復元点
オ 判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合において、当該情報に基づく表示点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点
カ 判決書図面に囲障、側溝等の工作物の描画があり、それら囲障等に沿って筆界点が存するなど図面上において筆界点の位置が図示されている場合において、当該図面の作成当時の工作物が現況と同一であると認められ、現地において図面に図示された筆界点の位置を確認することができるときにおける当該位置の点
(2)山林・原野地域について
以下のアからカに掲げるいずれかの点で構成される筆界は明確であると認めることができる。ただし、土地の利用状況、開発計画の有無等に鑑み山林・原野地域とすることが相当でないと認められる事情があるときは、市街地地域の要件を当てはめるべきである。
ア 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合における、申請土地の筆界点の座標値に基づく表示点(ただし、カに該当するときは、この限りでない。)
イ 登記所に筆界の復元基礎情報といい得る図面情報が記録された地積測量図の備付けがある場合における、当該情報に基づく表示点(ただし、カに該当するときは、この限りでない。)
ウ 筆界特定登記官による筆界特定がされている場合において、当該筆界特定に係る筆界特定書及び筆界特定図面に記録された特定点を当該図面等の情報に基づき復元した復元点
エ 判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合における、当該情報に基づき復元した復元点(ただし、カに該当するときは、この限りでない。)
オ 判決書図面に囲障、側溝等の工作物の描画があり、それら囲障等に沿って筆界点が存するなど図面上において筆界点の位置が図示されている場合において、当該図面の作成当時の工作物が現況と同一であると認められ、現地において図面に図示された筆界点の位置を確認することができるときにおける当該位置の点
カ ア、イ及びエの場合において、筆界の復元基礎情報といい得る図面情報に基づく表示点の位置に対して、公差の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」
(3)村落・農耕地域について
周辺の土地等の利用状況等の事情に応じて、市街地地域又は山林・原野地域のいずれかの要件を当てはめるべきである。

まず、問題点が端的に現れているものとして(1)-「オ」についてみることにします。
①(1)-「オ」・・・「判決書図面」の場合
再掲します。
「オ 判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合において,当該情報に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」

これは、筆界確定訴訟の判決図面に基づいて筆界を認定する場合のことについて言っているものです。
筆界確定訴訟の確定判決という資料の法的性格としては、筆界を確定する法的効果を持つものです。その判決には形成力があり、対世効を持つものとされています。また、筆界特定との関係では「筆界特定がされた場合において、当該筆界特定に係る筆界について民事訴訟の手続により筆界の確定を求める訴えに係る判決が確定したときは、当該筆界特定は、当該判決と抵触する範囲において、その効力を失う。」(不動産登記法148条)とされており、筆界特定の効果をも失わせるような言わば「最強」の法的性格を持つものです。
ですから、筆界確定訴訟の確定判決があり、しかもそれが「オ」の場合のように「復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている」のであれば、その図面情報の示すものが「筆界」である、ということになります。これには、何の留保も条件も必要ない、ことであり、その意味では登記官が「認定」しようとしなかろうとそう判断される、という性格のものです。
ところが、「報告案・資料」では、「筆界が明確であると認められる」のは、「判決書図面に復元基礎情報といい得る図面情報が記録されている場合において,当該情報に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内に境界標の指示点が現地に存するときの当該指示点」だとしています。
「復元基礎情報」を備える確定判決がある場合でも、その判決(情報)だけでは「筆界が明確である」とすることはできず、「境界標」がなければならないとしている、ということです。これは誤りです。「境界標」があろうとなかろうと、判決(情報)の示す位置が筆界なのであり、それ以上に何の留保も条件も要りません。もちろん、それにもとづいて現地に復元してみることはするでしょうが、その復元点に境界標があろうとなかろうと、工作物があろうとなかろうと、関係のないことです(もっとも、判決書(図面)がその境界標の存在をもって「境界」だとの判断をしたのであれば、判決書(図面)にその旨が記載されるでしょうから、「数値(情報)」に関わらずその境界標の位置を「筆界」と認定することが正しい、と言えるでしょう。この場合数値との違いがあるのだとすれば、「測量誤差」の問題だということになります。また、これはあまり考え難いことですが、復元の結果があまりにも明確に誤り(たとえば「旧日本測地系」の座標値であるにもかかわらず「世界測地系」と記載さされていて位置が数百メートル違う位置になってしまうような、極端な、通常はありえないような誤り)であるような場合には、そのまま「筆界」だとすることはできない、というようなこともあるでしょうが、あくまでもそれは例外的なことで、ありえないようなことを考えても仕方ありません。
それを、このように「境界標」がないといけない、としてしまうのでは、筆界確定訴訟の判決があっても「境界標」がなければ「筆界認定」できない、としてしまうことになるのであり、どう考えても妥当だとは思えません。
しかも、「公差の範囲内」であれ判決(情報)の示す位置と、現地に「境界標」があってその間に相違のある場合には、「境界標の指示点」の方を「筆界」だと認定する、ということとされています(「当該指示点」というのはそういう意味でしょう)。
これは誤りです。この「判決(情報)の示す位置の近くに「境界標」が既に存在してい」て、それらが食い違うということ自体がそもそもあまり考えられないことなのですが、もしもそういうケースがあるとすれば、それは次のようなケースです。最もありうるのは、判決の事後に、その判決(情報)に基づいて境界標が設置された、という場合です。この場合には、境界標の設置にあたって一定の「誤差」が生じることがありうるので、その誤差を抱え持つ境界標の位置の方を「正しい」と見てしまうのは誤りであると言えます。また逆に、判決の以前に「境界標」が存在していた、という場合もあるかもしれません。この場合、判決書が当該「境界標」をもって「境界」だと判断することが示されていないのであれば、判決は「境界標」の存在を前提にしながら、敢えてそれとは異なる位置として(「公差の範囲内」だとしても)「筆界」の判断をした、ということになるわけですから、「筆界」は「境界標」の位置ではなく、判決(情報)の示す位置である、というように判断するべきです。ところが「検討報告書・資料」では「公差の範囲内にある境界標」の方をと判断するべき、としているのですから、これは「誤った筆界認定をしてしまう」ものにあたると思えるのです。(なお、この場合には「判決図面」にもそれなりの記載はあるでしょうし、もしそれがなくても判決書を見ればそこにも示されているはずです。「ウ」では、「筆界特定書及び筆界特定図面」を考慮対象としているのに、「オ」では「判決書」を対象としておらず、「判決」の趣旨をよみとろうとしていないことに問題がある、ということでしょうか。)
この「筆界確定訴訟の判決があり、そこに復元基礎情報がある場合でも、現地に境界標がないと筆界が明確であると判断できない」という考えは、わたしにはとても衝撃的なものです。そんな考え方がありうるのだろうか?何かの間違いなのではないか?と今でも思っているところがあるのですが・・・どうなのでしょう?

以上「判決書図面」について、あまりにも衝撃的だったので、つい初めに書いてしまいましたが、これは実際にはあまり問題になることではないでしょう。次に「本題」とも言うべき、実務的に比較にならないほど多く問題になるであろう「14条1項地図」「地積測量図」(「ア」「ウ」)に関することを、次回に書くようにします。

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