大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「表示に関する登記における筆界確認情報の取扱いに関する指針(第2案)」への意見募集

2021-12-27 19:19:57 | 日記
久しぶりの(実に半年ぶり)、そして今年最後のブログ更新になります。
しばらくお休みしていたのは、それまで主なテーマとしていた”土地家屋調査士ネタ“について、書くほどのことがなくなってしまったからです。この状況は今も変わりはしないのですが、「『表示に関する登記における筆界確認情報の取扱いに関する指針(第2案)』に関する意見募集」というものがなされているので、これまでの行きがかり上、少しは書いておかなければ、ということで久しぶりに書くことにしました。
「今後の予定」については、本稿末尾に書くようにします。

上記「意見募集」に際しては、前回の「意見募集」で寄せられた意見への「回答」的なものも付されていて、なかなか丁寧な対応です(少なくとも形式的には)。
土地家屋調査士から寄せられた「意見」の中には、
「全般的に、筆界確認の簡易化の影響としては、93条但書調査書の重みが増大することになり、実質的には調査士の責任が過大となると考えられる。」

なんてものもあります。
なんとも情けない話です。「調査士の責任が過大」って、どういう意味でしょう?「調査士の責任が重くなる」というのであれば、まだわかるのですが、「過大」というのは否定的な評価を含んだものです。
こういうことを言う人は、反面「調査士の権限を拡大しろ」的なことをも言います。「権限は大きく、責任は小さく」という考え方です。「業界エゴ」の考え方ですね。しかし、一般的に言って「権限と責任」は正比例の関係にあるものとしてとらえるべきです。大きな権限は大きな責任を伴うべきなのです。
このような情けない「意見」を公然という人は少ないと思いますが(甘い?)、私が日調連の役員などをしてきた経験からすると、このような「考え方」というのは、土地家屋調査士業界における支配的な考え方だと思えてしまうのが、悲しいところです。

本題に戻ります。
「表示に関する登記における筆界確認情報の取扱いに関する指針(第2案)」への意見募集は、「指針案」「用語集」「フローチャート」の3つに対するものとして行われています。
「指針案」については、基本的に「第1案」を踏襲しているものですので私としては、これまで縷縷書いてきたような疑問・批判を多く感じていますが、それについてはさておくこととして、ざざっと見たところ「第1案」から「解説」部分を丁寧にしており、その意味では「改善」されたものになっている、と言えると思います。繰り返しますが、それでもとっても不足であったり、間違っていて根本的に問題だと思うのですが・・・今回は、「フローチャートの問題点」ということに絞って書くことにしたいと思います。

いろいろと指摘しておきたいことがあるのですが、ぐちゃぐちゃした話になってしまうので、具体的な問題について絞って見ることにします。
フローチャート②―1は、「指針案」の第2-4-(1)に対応したものです。
この中で、青枠で囲われて「筆界が明確であるとはいえない」とされて、黒枠の「筆界確認情報の作成主体となれる者がいないか?フローチャート③へ」と進むところがあります。「地積測量図・判決書図面-境界標あり-公差の範囲外」「地積測量図・判決書図面-境界標なし」の形で進んで来ると行きつくところです。
しかし、このように進んでくると、必ず「筆界が明確であるとはいえない」ということになるのか?と言うと、そうではありません。「指針案」自体においても次のように言われています。
「本指針で例示する事例以外でも,登記官が筆界を認定することができる事案は存在する。」第1-4-解説。P.4)

ということです。「登記官が筆界を認定することができる」ということは、「筆界が明確であるとはいえ」る、ということです。
たとえば、具体的には、「第2-4-(1)の解説4」では、地積測量図でも
「対象となる土地の付近一帯の土地に現地復元性のある地積測量図があり,それらの各土地の位置関係を全体的に考慮した検証が可能な場合などにおいては,イの適用手法に準じて取り扱うことも考えられる」

とされています。つまり、14条1項地図のように「画地調整して導き出した復元点」をもって「筆界であることが明確」として取り扱うこともできる場合がある、ということです。私は、この「地図」と「地積測量図」を区別する論理には、およそ納得していませんが、それはともかくとして、決してフローチャートの言うように一概に「筆界が明確であるとはいえない」とされてしまうべきでないことは、「指針案」でも言われていることであるわけです。
もっと明確なのは、「判決書図面」について、です。今回加えられた解説では、次のように言われています。
「境界確定訴訟の判決があった場合は,判決に示された点が筆界点になるのであるから,判決書図面に表現された筆界点を現地において復元することができるのであれば,判決書図面のみをもって登記官が筆界を確認することができると考えられる。」(「第2-4-(1)の解説5」

ごくごく当然の指摘です。ですから
「本指針では,一般的に復元が可能な代表的な例として,オ及びカの類型を挙げた。実際にはオ及びカ以外にも判決書図面のみをもって登記官が筆界を確認することができる事案は十分あると考えられる。」(同)

ということになります。ですから「フローチャート」で、「判決書図面-復元基礎情報あり」から下りてきた先に「筆界が明確であるとはいえない」などというものは、あってはならないのです。「判決書図面のみをもって登記官が筆界を確認することができる事案は十分ある」わけですから、登記官はしっかりとその作業をしなければなりません。安直に「フローチャート」のように「筆界が明確であるとはいえない」という「結論」を出すようにしてはいけないのです。
もう一度繰り返します。「指針案」の「第2-4」の「適用手法(筆界が明確であると認められるための地域別の要件)」において「ア」~「カ」として挙げられているものは、「解説」によれば「一般的に復元が可能な代表的な例」の「類型」を挙げたものに過ぎないのであり、まさしく「本指針で例示する事例」なのであり(事例列挙)、これ以外の場合は「「筆界が明確であるとはいえない」とするもの(限定列挙)ではない、ということが「指針案」では(特に第2案で手厚くなった「解説」では)言われています。(そうであれば、もっと多くの例示をするべきだと私は思いますし、そもそも誤解を生むような例示をすることの意味を理解しえないのですが、それは措いておくものとして)。
ですから、ここで「例示」されたもの以外のものについて、直ちに「筆界が明確であるとはいえない」という「結論」を出してしまってはいけないのです。せいぜい「直ちに筆界が明確であるとはいえないので、他の検討を要する」ということで、さらに続いていくものでなければなりません。

以上は、この「フローチャート」が、安直に「筆界が明確であるとはいえない」と結論付けてしまっていることについて言いましたが、この「フローチャート」には、まったく逆に安直に「筆界が明確であることが明確」だと結論付けてしまう誤りもあります。
「地積測量図・判決書図面-境界標あり-表示点と指示点とが公差の範囲内」と進んでくると「当該指示点が筆界であることが明確」と言うところに行き着くのです。
ここで言う「指示点」というのは、「境界標の表面にされた刻印等によって、当該境界標が指し示す点」だとされています(「用語集」14)。また、「表示点」というのは「筆界点を座標値等の数値情報(距離、角度等)に基づき、測量機器を使用して単に現地に表した点」(同7)だとされています。(以前にも書いたように、この勝手な「用語定義」は、意味のない、いたずらに混乱を招くだけの不要な概念操作だと私は思っていますが、それはさておき。)
たとえて言うとこういうことになります。「甲2」地域では「筆界点の位置誤差」の公差は20㎝ですから、地積測量図に「X=100.000,Y=50.000」と記載のある筆界点を「現地に表し」てみたら、その近く(X=100.190,Y=50.000)の位置に「指示点」があった、とすると(要するに19㎝離れたところに境界標があったとすると)、これは「公差の範囲内」にある可能性が高い(他の規準を含めて)ので、境界標の位置を「筆界が明確であることが明確」だ、とするべきである、ということを「フローチャート」は、言っていることになります。
これは、「指針案」自体が、「境界標の指示点の位置と現況工作物等が示す位置との関係や周辺土地の現況を踏まえて,当該指示点をもって筆界点と認定することに強い疑念が生じる場合は,直ちに筆界点と認定することなく,境界標の設置者,設置経緯等の背景事情,筆界が創設された経緯,地形,境界標以外の現況工作物の位置等を総合的に勘案した上で判断する必要がある。」(第2―4-(1)の注12。P.12)としていることにも反します。
このように短絡的な「結論」に導いてしまうような「フローチャート」と言うのはよろしくないと思います。百歩譲っていっても、「指針案」自体の記述からすると、「フローチャート」的に言えば「公差の範囲内」の次に「指示点をもって筆界点と認定することに疑念があるか?」という選択肢を設けて、「ない」であれば「当該指示点が筆界であることが明確」としても差し支えないことになるのでしょうが、「ある」であればそういうことにはならない、ということを明記しておくべきなのだと思います。そのような検討を進めていくことこそが必要だと思うのですが、そうなっておらず、過剰に単純化してしまっている「フローチャート」というもの自体に問題があるように思えてなりません。

ということで、私としては、さまざまな問題があるものと思いつつ、上記の「フローチャートの問題点」に絞って、「意見」として次のものを上げようと思っています。

青枠で「筆界が明確であるとはいえない」として、黒枠の「筆界確認情報の作成主体となれる者がいないか?」へ進むこととしている部分は、不相当であると考える。
理由=この箇所に至る上の諸選択肢の場合でも「筆界が明確である」と言える場合もあるのに、「筆界が明確であるとはいえない」としてしまうこと、その結果として「筆界確認情報が必要」であるかのように決めつけてしまうことは不相当である。「筆界が明確である」と言える場合もあることについては、「指針案」において「対象となる土地の付近一帯の土地に現地復元性のある地積測量図があり,それらの各土地の位置関係を全体的に考慮した検証が可能な場合などにおいては,イの適用手法に準じて取り扱うことも考えられる」(第2-4-(1)の解説4。P.14)、「判決書図面に表現された筆界点を現地において復元することができるのであれば、判決書図面のみをもって登記官が筆界を確認することができると考えられる」(同解説5)と言われているところである。


「地図」「地積測量図」から「境界標あり」-「公差の範囲内」でおりてきたものについて「当該指示点が筆界であることが明確」とするのは不相当である。
理由=これらの場合、「当該指示点が筆界である」としてしまっているが、必ずしもそうなるべきでないことは、第2―4-(1)の注12(P.12)において「当該指示点をもって筆界点と認定することに強い疑念が生じる場合」もあることが指摘されているところであり、必ずしも「当該指示点が筆界であることが明確」である、ということになるわけではない。たとえ「公差の範囲内」(甲2で20㎝、乙1では75㎝もある)であろうと、「表示点」と「指示点」とに相違がある場合には、どちらが筆界を示すものなのか?という検討が必要なのであり、一方的に「指示点」だと決めつけてしまうべきものではない。



最後に、本ブログの今後について。
以上をもって”土地家屋調査士ネタ”を扱うものとしては、「最後の投稿」にしようと思います。正直、この今回の「筆界認定の在り方検討」をめぐる問題を見て、わが業界(「土地家屋調査士業界」ということだけでなく「土地境界問題業界」「表示に関する登記業等々)のレベルの低さ、ということを痛感しました。こんな低水準の話をグダグダ書いていかなければいけない自分、というのを、とても情けなく思います。
他方、自分自身の問題として、今回のものを書きながら、しばらく文章を書いてこなかった自分自身の能力の劣化、ということも痛感しました。
・・・ということから、”業界ネタ”を主としたブログについては、これをもって終わり、ということにして、来年からは、純粋に個人的な「老化防止策」としてあれこれを書く、というものにしていこうかと思っています。”業界ネタ”を中心とする本ブログを、それがゆえに読んでいただいていただいた方には、今後「期待」?にお答えできない、ということになろうかと思います。申し訳ありませんが、これまでお読みいただき、ありがとうございました。

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