実務家弁護士の法解釈のギモン

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高度プロフェッショナル制度の疑問(3)

2018-05-23 10:55:20 | 時事
 もっとも、高プロ制度適用には、結構高いハードルがある。

 まず、内容規制であるが、第1に、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事していた時間と従事して得た成果と関連性が通常高くないと認めら得るものとして厚生労働省令で定めた業務に限られる。つまり、厚生労働省で定められる業務は、労働時間と成果との間に関連性が低い業務であることになるので、一つの見方として、労働時間規制はないといっても、労働条件の内容として、長時間労働を定めることそのものが、ナンセンスな業務のはずだと言いやすいのかもしれない。
 マスコミなどでは、高プロ制度を成果主義に基づく賃金制度などという言い方をする場合があるが、この点を捉えているのであろう。しかし、そうは言っても、労働時間規制のないことに変わりはない。その問題性が今になって認識されたためか、厚生労働省令では、労働時間の縛りのない業務として定めるとの噂もあるようである。ただし、実際に省令で定められる業務は、金融業務やコンサルティング業務というが噂されているが、明確には決まっていないようで、指定される業務について、厚生労働省の裁量が問題となりそうである。

 次に、労働内容については、労使間の書面等の合意で、職務が明確に定められている必要がある。そのため、当該対象業務をこなしさえすれば、労働時間を押しつけられることはないはずで、次から次へと様々な業務を押しつけられるということもないはずだというが立法の意図なのであろう。

 第3に、年収要件があり、おおざっぱに言ってしまうと、平均年収の3倍を超える額として厚生労働省で定める額以上を支払うと見込まれることである。現時点では、年収1075万円を想定していると言われている。
 この年収要件は、どれほどのものだろうか。仮に金融業務に従事する労働者を考えると、労働時間規制を外す対価としては、それほど高額とはいえないような気がするのである。
 また、こちらの方がさらに問題であるが、この年収要件は、法律案を見る限り、あくまでも「見込み」でよいと読めるのである。「見込み」要件となっている結果、高プロを反対する人たちの言い方によっては、24時間働かなければ、年収が減額されるような労働条件も認められるかの如くにいうネットの情報もあるが、さすがにそれは極端すぎるであろう。高プロが労働時間と成果との関連性が低い業務である以上は、どちらかというと、成果か上がらなければ、年収が減額されるような労働条件の定めの方が現実的に起こりそうである。「見込み」要件は、このような定めを許すのであろうか。もしそうだとすると、なかなか成果が上がらなければ、成果を上げるために結局は長時間労働を強いられる結果ともなりかねない。やや極端には、弁護士業務などは、勝訴を成果と捉えられると、たまったものではない。どれほど適正に仕事をしても、どれほどの量の仕事をしても、必ず勝訴するとは限らないからである。
 このように、年収要件の「見込み」要件が、文字通り見込みでよいとすると、業務内容として多くの成果が求められる場合には、長時間労働を覚悟しなければならない場合もあること、弁護士業務のように事務処理型労働については、何を持って成果というかが問題となってくるので、「見込み」要件は、相当に問題がありそうである。

 その他、健康管理措置の導入や、休日の定め等があるが、休日は、要は平均すると週休2日でよく、有給休暇の適用も排除されてしまうので、労働時間規制排除の見返りにはなっておらず、むしろ有給休暇が取得できないだけ、不利益ともいえる。健康管理措置も、気休めのような気がする。

 以上が内容規制であるが、結局、労働時間規制排除前提は、成果型労働であることと、その見返りは、年収1075万円の「見込み」がメインであるといえるだろうか。そのように考えると、内容規制としては、それほどのハードルの高さはないかもしれない。

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