実務家弁護士の法解釈のギモン

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改正相続法-遺留分侵害額請求の法的性質(5)

2019-01-16 12:32:11 | 家族法
 具体的に考えてみる。相続人が長男と次男の2人だけだった場合に、相続分として長男9割、次男1割とする相続分の指定がなされた場合にどうなるか。遺産は、仮に7500万円の不動産と2500万円の不動産だけだとしよう。
 この場合、改正相続法をそのまま当てはめると、遺産分割協議では、遺産のうち9割を長男が取得し、1割を次男が取得するので、通常は7500万円の不動産は長男が取得し、2500万円の不動産は、長男か次男が取得し、取得しなかった方が代償金を支払うことになるか、代償金支払い能力がなければ、競売になる。そして、次男の指定相続分は遺留分4分の1(2割5分)に満たないことから、その差である1割5分の分である1500万円は次男から長男に金銭請求をするということになる。
 しかし、この事例の場合、遺産分割協議で次男が遺留分の範囲内である2割5分の遺産である2500万円の不動産を単純に取得するという解決が最も単純明快のはずであり、この結論に何か問題はあるとは思えないばかりかこの結論の方が優に合理性が高いはずである。もちろん、改正後においても、任意の遺産分割協議の場合は、当事者の納得の問題なので、任意にこのような解決することは可能であろう。しかし、遺産分割審判となるとそうはいかない。裁判所は指定相続分に縛られた遺産分割審判をせざるを得ず、さらにそれとは別に遺留分『侵害額』請求権についての判断は純粋な金銭請求として判断せざるを得ない。

 以上の事案を少し変えて、遺産が20種類の上場株式で、それぞれの種類の株式の価値がすべてちょうど500万円だったらどうか。この事案でも、遺産分割審判では、長男が18種類の株式を取得し、次男が2種類の株式を取得する審判しかなしえない。あとは遺留分『侵害額』請求権の行使として金1500万円の金銭請求について判断することになる。しかし、この事案でも、次男が5種類の株式を取得することですべて解決させることに、何か問題があるとは思えないし、遺留分『侵害額』請求と言ってみても、そもそもが「相続」の効力の問題なので、次男も遺留分の範囲内で親の財産を取得することこそが理想の姿ではないかと思うのである。

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