実務家弁護士の法解釈のギモン

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改正相続法-特別受益者の相続分と生前贈与に対する遺留分侵害額請求(5)

2019-06-12 13:26:21 | 家族法
 しかし、まず、後者の問題、つまり調査の負担や価格算定の負担等の問題は、あまり大きな理由にならなそうな気がする。なぜなら、遺留分権利者が請求できる遺留分侵害額を計算するに当たっては、法定の遺留分から、遺留分権利者が具体的相続分に応じて取得することとなる遺産の価格を控除することになるが、ここでの遺産の価格は、特別受益を考慮した具体的相続分そのものなので、結局のところ、その具体的相続分を算定するために、相当過去に遡って特別受益(すなわち贈与)があったかどうかの調査が必要になるし、その財産の価格を現在価格に算定し直す処理をする負担が必然的に発生するからである。
 おそらく、調査の負担や価格算定の負担が軽くなる場面を想定するとすれば、それは遺留分権利者の具体的相続分がゼロの場面、すなわち、特定の遺留分権利者に対する相続分をゼロとする遺言が存在する場合に限られるであろう。実際問題とすると、例えば長男に全遺産を相続させる旨の遺言がなされることはたびたびあり、このような場面で他の相続人の遺留分侵害額を計算する場合に、過去10年までの贈与に限ることによって、調査の負担や価格算定の負担は軽減することはありうるとは思う。しかし、それ以外の場面では、調査の負担、価格算定の負担は理由にならない。

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