実務家弁護士の法解釈のギモン

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再転相続人の熟慮期間(5)

2019-10-09 09:49:26 | 家族法
 ただし、この最高裁判例は、その射程がそれほど広くはないのではないか、と思うのである。それは、この判例の事案の特殊性にある。

 実は、今回の判例の事案は、単純に祖父甲が死亡し、それから3ヶ月経過する前に父乙が死亡した場合の本人丙の立場という事案ではない。甲死亡により第1順位の相続人である子及び配偶者がみな相続放棄をし、(第2順位である直系尊属も既に死亡しており)、第3順位である兄弟姉妹が乙の立場で相続した事案である。兄弟である乙が甲の相続につき熟慮期間経過前に死亡して乙の子や配偶者が再転相続人となったという事案なのである。もちろん、甲の借金がどうなるかが問題となっている。
 このような事案の場合、甲には子がいる以上、乙や丙は、甲の死亡の事実を知っていたとしても、甲の子が相続していると思うのは当然であり、放棄していることを知らない限り、乙は、自己が相続人となったことを認識しないことも多いであろう。当然、丙はもっと認識不可能である可能性が高い。このような事案での判示なのである。
 単純な事案である祖父甲、父乙、本人丙という事案では、丙において、祖父甲が乙よりも先に死亡していることの認識さえあれば、丙は、自己が甲の地位を承継することは認識可能である。そして、社会実態として、親族の付き合いがある限り、祖父甲の死亡は、多くの場合、孫丙はすぐに知ることになろう。
 そうだとすると、単純な祖父甲死亡、熟慮期間経過前に父乙死亡により本人丙が再転相続したという事案では、最高裁の判旨はなかなか当てはまりにくそうである。射程範囲が狭そうだというのは、以上の意味である。

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