実務家弁護士の法解釈のギモン

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裁判上の自白と不利益陳述(5)

2016-10-12 10:03:35 | 民事訴訟法
 以上に対し、有力説が考えるような敗訴可能性ということで、うまく説明しきれるのだろうか。このことは、当初の事例ではっきりすると思う。賃貸借契約で賃料支払いの事実が立証できないならば、原告であるAからの債務不履行解除の再抗弁が認められやすいが、使用貸借であれば、この再抗弁はあり得ない。そのため、使用貸借を主張した方が被告にとって有利である可能性もないわけではないのである。

 別の角度で検討する。有力説のように考えて、被告側において自白が成立した使用貸借の主張の撤回が出来ないということは、後から賃貸借の主張をすることを許さないということと表裏の関係にあるはずである。というよりも、実はむしろ使用貸借の主張の撤回の問題よりも、後から賃貸借の主張をすることを許さないという点に主眼があるといっていいはずである。なぜなら、使用貸借の主張を撤回しないまま賃貸借の主張を追加することも考えられるが、これを認めたのでは、使用貸借の主張の撤回を許さないという有力説がいう自白の効果としての意味がなくなってしまうからである。したがって、自己に立証責任のある事実について自白の不可撤回効を認める有力説は、実は不可撤回効を論じているのではなく、他のより有利かもしれない立証責任ある事実についての不可主張効を論じているのではないだろうか。

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