実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

訴え取り下げ合意の法的性質(4)

2016-12-01 09:58:23 | 民事訴訟法
 私法行為説は、私法上の権利義務に過ぎないから、訴えの利益を介在させてることによりようやく訴え却下という結論を導くのであるが、そもそも、そこでいう私法上の権利義務の内容は何であろうか。おそらく、原告には訴えを取り下げる私法上の義務が生じるというのであろう。しかし、この義務は不代替的作為義務のように感じるので、直接強制に親しむ義務ではなさそうに感じるし、仮に間接強制が可能だとしても、端的に訴訟を終了させるような効果を認めないと、著しく迂遠であることも当然である。だからこそ、訴えの利益に結びつけるのであろう。

 しかし、訴えを取り下げる義務が、本当に不代替的作為義務か否かはもう少し検討してみる余地がありそうだと思っている。訴えを取り下げる私法上の義務とは、もっと正確にいえば、裁判所に対して訴え取り下げの意思表示をすることを内容とする、相手方に対する私法上の義務ではなかろうか。そうだとすると、純粋に論理を詰めれば、裁判所に対する意思表示をする実体法上の義務であろう。そうであるならば、その義務の履行を強制することが可能なはずである。つまり、理論だけで考えれば、登記請求訴訟と同じように、被告は別訴で、「被告(もとの訴訟の原告)は、○○事件の訴えを取り下げよ。」という、意思表示を求める訴えとして訴訟を提起することが可能なはずである。
 この訴訟に勝訴すれば、確定判決をもって原告の意思表示と擬制されるので、被告が確定判決を受訴裁判所に提出することによって訴え取下げの効果が生じる、という説明ができそうである。これが可能であれば、訴え却下ではなく、文字通り訴えの取下げで訴訟が終了する。そして、この場合の取り下げの意思表示をする義務は、被告に対する私法上の義務といっていいだろう。
 ただし、すぐに気づくように、別訴を提起しなければならないとすれば、著しく迂遠であることは当然であるし、別訴の結論が出るまでは、本訴の進行を止めることは、論理的には不可能である。
 別訴ではなく反訴ではどうかとも考えられるが、反訴を提起すること自体が、被告にとっては面倒ではある。

コメントを投稿