実務家弁護士の法解釈のギモン

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訴え取り下げ合意の法的性質(5)

2016-12-08 13:47:11 | 民事訴訟法
 そもそも、意思表示の擬制という執行を、既判力を持って確定する必要がある理由は、当該意思表示を求める訴え以外の場面(例えば、登記手続に用いるなど)で当該意思表示の擬制の効力を対外的にも争えないものとなったことを明確にしておく必要があるからであろう。
 しかし、訴え取り下げの意思表示は、当該訴訟手続内で完結する問題である。したがって、訴え取り下げそのものの効力やその義務(訴え取り下げ合意がされた場合)の存否について、わざわざ別訴で争わせる意味に乏しいと言えそうである。だとすれば、訴え取り下げそのものの効力については、基本的には当該訴訟手続内で判断するだけで不都合はなさそうである。
 そうだとすれば、訴え取り下げ合意であっても、端的に、私法上の義務として原告には訴えを取り下げる義務が生じたことの主張・立証を、当該訴訟手続内で認めてもよいのではないだろうか。これが認められた場合、判決理由中の判断として訴えを取り下げる義務があることを判断することになる。そして、判決理由中の判断ではあるものの、原告の訴え取り下げの意思表示を擬制してしまうのである。民事執行法174条の趣旨を類推するといってもよい。
 そうすれば、私法行為説でも、訴え却下ではなく、訴え取り下げによる訴訟終了宣言で終わらせることが出来そうである。もちろん、訴え取り下げ合意による取り下げ義務が認められなければ、そのまま訴訟は続行されて本案判決をする。

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