実務家弁護士の法解釈のギモン

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譲渡禁止特約付債権の担保(2)

2010-09-02 11:07:19 | 債権総論
 ところで,前回ブログで取り上げた判例を,仮に判旨どおりに「債権譲渡」の効力としてみた場合,譲渡禁止特約の効力如何という問題となってくる。

 通説は,譲渡禁止特約には物権的効力があり,債権譲渡そのものが当然に無効だと説明しているようであり,これに対する有力説である債権的効力説は,譲渡禁止特約は,あくまでも債権者・債務者間の債権的効力しかなく(したがって,基本的には特約違反は債権者の債務者に対する債務不履行の問題としか考えないのであろう),譲受人が悪意(重過失)であった場合には,債務者は譲渡禁止特約をもって譲受人に対抗できるにすぎない,と説明するようである。
 これまでの判例は,一応物権的効力説を採用していると言われているようであり,判例解説によっては,上記判例も基本的には物権的効力説を採用しているとの解説もある。確かに,判例の理由付けを見ると,物権的効力説的な判示となっているようにも読める。ところが,結果的には債権譲渡は無効にならないといっているのである。そうだとすると,「物権的効力=絶対的無効」ではなく,「物権的効力=相対的無効」と理解するのであろうか。

 しかし,物権的効力説を明言した最高裁の判例は存在しないようであり,上記判例も,特約の存在について譲受人に重過失があって,本来無効であるべき債権譲渡が,譲渡人からは無効の主張ができないと判示している判例であるから,結論だけをみると債権的効力説にかなり親和性があるといわざるを得ないと思う。
 そして,これまでの判例も,理由付けはともかくとしても,判例の結論が債権的効力説と明らかに矛盾する判例は,あまり見受けられないような気もするのである。あるとすれば,特約違反の譲渡後に譲渡人に対する債権者が債権を差押え,その後債務者が債権譲渡を承諾した事案で,民法116条の法意に照らして債務者の承諾による譲渡の遡及的有効性を差押債権者に主張できないとした判例くらいであろうか。

 ちなみに,債権法改正検討委員会の改正案は,譲渡禁止特約の効力を債権的効力的な改正の方向性を示しているようである。譲渡禁止特約が,債務者の保護のためにあるとすれば,物権的効力説を採用する積極的な理由は存在しないということであろうか。

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