実務家弁護士の法解釈のギモン

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詐害行為取消権の相対効?(1)

2009-06-15 16:24:04 | 債権総論
 詐害行為取消権の法的性質について,教科書のレベルでは,形成権説,請求権説,折衷説の争いがあり,判例,通説は折衷説であると説明される。そして,条文上は「法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。」となっているだけであるにもかかわらず,折衷説の中身については,詐害行為たる法律行為を取り消す権利だけでなく,逸失した財産を取り戻す権利まで詐害行為取消権の中身として説明されている(もっとも,だからこそ,折衷説なのではあるが。)。しかも,分かりにくいことに,取消しの効果は取消権者(債権者)と受益者,転得者との間の相対的な効力でしかないという。そのため,現に詐害行為を行った債務者に対しては,取消しの効力が及ばないというのである。
 この「折衷説+相対効」は,多くの批判がありながらも,明治時代から現在に至るまでの確定判例であり,今さらさらにこれを批判してみたとしても,どうなるわけでもないであろう。が,理論的にも実務的にも分かりにくいので,私なりの考え方示してみたい。

 そもそも,最初に判例が「折衷説+相対効」を明らかにしたのは,明治44年であり,非常に古い。しかも,受益者のみを被告とした訴え(つまり,債務者を被告としていない)も適用だとするために「折衷説+相対効」を解いたようにも読めなくもない。そのため,私は,この判例は,まだ詐害行為取消権の解釈が煮詰まっていない時代の,被告を受益者のみとしてしまった訴訟についての救済判例的な側面が強いのではないか(不適法却下してしまうと,再度訴えを起こすにしても既に2年の消滅時効(民法426条前段)に係ってしまっている可能性は高い事案であろうと推測される),それにもかかわらず学説がこの「折衷説+相対効」に乗っかってしまったのではないか,と疑ったこともあった。
 が,どうもそうではないらしいことが最近分かった。詐害行為取消権はドイツ法を母法としているようであるが,そのドイツ法における詐害行為取消権に相当する法律の解釈が,どうも「請求権説+相対効」で説明されているようなのである。よく,ドイツ法の詐害行為取消権は,実体法と手続法が未分化の時代の遺物であるといわれる(このことの意味もよく分からないのだが,どうもドイツ法の詐害行為取消権は,民法典内に規定されているわけではなく,かつ,民法典が制定される前に制度化されたものらしく,そのことと関連があるのかもしれない。いずれにしても,日本法しか勉強したことのない実務家にとって,非常に分かりにくい。)。あるいはそのことと関連しているのかもしれない。このドイツ法の詐害行為取消権を日本が「輸入」するに際し,条文の文言上「取消」という言葉となって輸入したため,請求権説は採用しづらくなっているが,判例の「折衷説+相対効」は,このドイツ法の理論に裏打ちされたものだといえそうである。
 そうだとすると,判例理論は,よくいわれるような形成権説と請求権説の「いいとこ取り」の理論であるとは,必ずしも言い難い。明治44年の大審院判例についても,救済判例と理解することなどとんでもないことであり,むしろ,明治時代当時の大審院の裁判官の学識の高さがうかがえそうである。

 しかし,実務家としては,やはり相対効理論は理解しにくい。

    つづく。

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