昭和43年判例は,株式会社が破産宣告とともに同時破産廃止の決定を受けた場合において,なお残余財産が存在する場合に,委任者の破産を委任契約の終了事由とする民法653条を根拠に,取締役は会社の破産により当然取締役の地位を失うとして,従前の取締役が当然に清算人となるものではないことを判示したものである。
平成16年10月判例は,破産者が株式会社である場合において,破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき,別除権者が旧取締役に対してした別除権放棄の意思表示は,これを有効と見る特段の事情の存在しない限り,無効と解するのが相当とし,その理由として,破産宣告当時の代表取締役は,破産宣告を受けると財産の管理処分権を失うとして,昭和43年判例を引用する。そのため,別除権放棄の意思表示の受領は,旧商法417条1項ただし書き(現行会社法478条1項2号,3号)の規定による清算人または,同条2項(現行会社法478条2項)によって選任される清算人により行われるべきとする。ただし,この平成16年10月判例は,昭和43年判例を引用しつつも,民法653条を根拠条文として引いておらず,かつ,取締役としての地位を失うという表現を用いず,単に会社財産についての管理処分権限を失うとのみ述べている。この点に,昭和43年判例との微妙な違いを見いだすことができるだろうか。
問題なのは,取締役は会社の破産手続開始決定により当然にはその地位を失わないとする,本件判例や平成16年6月判例と,あたかも取締役は会社の破産手続開始決定により当然にはその地位を失うからその後の財産処理は清算人を選任すべしとする昭和43年判例や平成16年10月判例との整合性である。この2系列の判例の整合性が,私には理解しにくいのである。
平成16年6月判例は,昭和43年判例のことを,事案を異にするとして,その整合性について何も触れていない。また,平成16年10月判例は,その直前に平成16年6月判例があるにもかかわらず,それとの整合性については全く触れていない。平成16年10月判例の判例時報の解説にも,平成16年6月判例のことは何も触れていない。
しかし,どう考えても,本件判例や平成16年6月判例は,取締役は破産手続開始決定後もその地位が残るとしか読めないし,昭和43年判例や平成16年10月判例(特に前者の判例)は,取締役は破産手続開始決定後はその地位を失うようにしか読めないのである。強いて言えば,平成16年10月判例では,上述のように,民法653条を引用せず,単に会社財産の管理処分権限を失うと述べているに過ぎないので,かろうじて,必ずしも取締役は破産手続開始決定後にその地位全てを失うわけではないということを,裏から読み取ることが出来るかどうかである。このように考え方があるとすれば,破産法44条1項等の趣旨,すなわち,破産財団に関する訴訟は破産手続開始決定により中断し,破産管財人が受継するが,破産財団に関しない訴訟は,中断せず,そのまま破産者が訴訟を続行するという趣旨にも,一応合致しそうな解釈でもある。
もし平成16年10月判例の上記のような表面的理解,すなわち,取締役は会社の破産手続開始決定により,会社財産の管理処分権限を失い,その他の権限は失わないという理解をすると,一応,本件判例や平成16年6月判例との整合性がとれそうな気もするが,そのように解すると,かなりおかしな現象が生じる。
つまり,破産会社の同時廃止あるいは異時廃止により破産管財人により換価・配当等がされずに会社に残った残余財産の処理,あるいは破産管財人により放棄された会社財産の処理は,会社法481条1項2号,3号あるいは同条2項により清算人を選任せざるを得ないこととなるが,同時に株主総会決議の瑕疵を問題とする訴訟等,会社組織上の法律問題の処理は,(代表)取締役が会社を代表して行うということになりそうである。そうすると,破産会社にこの二種類の問題が同時に生じた場合,清算人と取締役が同時に存在するということになってしまう。
しかし,このような考え方は,どう考えてもおかしい。なぜなら,会社法は,会社解散前の会社運営者を取締役とし,会社解散後の会社運営者を清算人として,形式的に区別しており,取締役と清算人が同時並行的に存在するような事態を決して想定していないとしか考えられないからである。
従って,私には,この2系列のそれぞれの判例の間には,整合的に解釈できる考え方は存在しない,つまり,矛盾しているとしか思えないのである。
さらにつづく。
平成16年10月判例は,破産者が株式会社である場合において,破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき,別除権者が旧取締役に対してした別除権放棄の意思表示は,これを有効と見る特段の事情の存在しない限り,無効と解するのが相当とし,その理由として,破産宣告当時の代表取締役は,破産宣告を受けると財産の管理処分権を失うとして,昭和43年判例を引用する。そのため,別除権放棄の意思表示の受領は,旧商法417条1項ただし書き(現行会社法478条1項2号,3号)の規定による清算人または,同条2項(現行会社法478条2項)によって選任される清算人により行われるべきとする。ただし,この平成16年10月判例は,昭和43年判例を引用しつつも,民法653条を根拠条文として引いておらず,かつ,取締役としての地位を失うという表現を用いず,単に会社財産についての管理処分権限を失うとのみ述べている。この点に,昭和43年判例との微妙な違いを見いだすことができるだろうか。
問題なのは,取締役は会社の破産手続開始決定により当然にはその地位を失わないとする,本件判例や平成16年6月判例と,あたかも取締役は会社の破産手続開始決定により当然にはその地位を失うからその後の財産処理は清算人を選任すべしとする昭和43年判例や平成16年10月判例との整合性である。この2系列の判例の整合性が,私には理解しにくいのである。
平成16年6月判例は,昭和43年判例のことを,事案を異にするとして,その整合性について何も触れていない。また,平成16年10月判例は,その直前に平成16年6月判例があるにもかかわらず,それとの整合性については全く触れていない。平成16年10月判例の判例時報の解説にも,平成16年6月判例のことは何も触れていない。
しかし,どう考えても,本件判例や平成16年6月判例は,取締役は破産手続開始決定後もその地位が残るとしか読めないし,昭和43年判例や平成16年10月判例(特に前者の判例)は,取締役は破産手続開始決定後はその地位を失うようにしか読めないのである。強いて言えば,平成16年10月判例では,上述のように,民法653条を引用せず,単に会社財産の管理処分権限を失うと述べているに過ぎないので,かろうじて,必ずしも取締役は破産手続開始決定後にその地位全てを失うわけではないということを,裏から読み取ることが出来るかどうかである。このように考え方があるとすれば,破産法44条1項等の趣旨,すなわち,破産財団に関する訴訟は破産手続開始決定により中断し,破産管財人が受継するが,破産財団に関しない訴訟は,中断せず,そのまま破産者が訴訟を続行するという趣旨にも,一応合致しそうな解釈でもある。
もし平成16年10月判例の上記のような表面的理解,すなわち,取締役は会社の破産手続開始決定により,会社財産の管理処分権限を失い,その他の権限は失わないという理解をすると,一応,本件判例や平成16年6月判例との整合性がとれそうな気もするが,そのように解すると,かなりおかしな現象が生じる。
つまり,破産会社の同時廃止あるいは異時廃止により破産管財人により換価・配当等がされずに会社に残った残余財産の処理,あるいは破産管財人により放棄された会社財産の処理は,会社法481条1項2号,3号あるいは同条2項により清算人を選任せざるを得ないこととなるが,同時に株主総会決議の瑕疵を問題とする訴訟等,会社組織上の法律問題の処理は,(代表)取締役が会社を代表して行うということになりそうである。そうすると,破産会社にこの二種類の問題が同時に生じた場合,清算人と取締役が同時に存在するということになってしまう。
しかし,このような考え方は,どう考えてもおかしい。なぜなら,会社法は,会社解散前の会社運営者を取締役とし,会社解散後の会社運営者を清算人として,形式的に区別しており,取締役と清算人が同時並行的に存在するような事態を決して想定していないとしか考えられないからである。
従って,私には,この2系列のそれぞれの判例の間には,整合的に解釈できる考え方は存在しない,つまり,矛盾しているとしか思えないのである。
さらにつづく。
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