実務家弁護士の法解釈のギモン

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空の公正証書?(3)

2017-03-31 10:47:34 | 最新判例
 今回の判例のような事案と法的問題について、実務を行っている感覚から説き起こしてみたい。

 実務を行っていると、債権証書の記載内容と、実際の債権の内容とに食い違いがあるという事案は、時々存在する。その中でも、債権証書の記載内容が貸金債権の場合、実は真実に金銭を貸し付けたのではなく、別の原因で発生した債権について、これを貸金として債権証書を作成するという事案を、時々目にする。
 たとえば、継続的売買契約における代金の支払いが滞っているときに、滞っている売買代金のトータルの金額を貸金元本として金銭消費貸借契約証書を作成するというようなことである。この場合、当事者双方は、実際の債権の内容が貸し金ではなく売買代金であることは、百も承知の上で金銭消費貸借契約証書を作成することになる。ただし、数ある現実の売買代金債権について、その中身を特定することが面倒等ということから、売買代金債権を合計した金額の貸金債権の形式の債権証書にしたということなのだろう。
 このような場合に、債権証書記載のとおり、貸金の返還を求めてきた場合、それは現実には売買代金の支払いを求めているという理解をしても、問題はなさそうに感じる。あるいは、準消費貸借契約が成立していると考える方が素直かもしれない。したがって、債権証書記載のとおりの貸金返還を内容とする請求があった場合、それが時効中断事由に該当するのであれば、訴訟においてどのような請求を立てるのが適切か(つまり売買代金支払請求訴訟とするのか、準消費貸借契約に基づく返還請求訴訟とするのか)はともかく、いずれにしても法的に認められる債権に対して時効中断の効果を認めても良さそうに感じるのである。

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