みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0003「小悪魔的微笑」

2024-03-11 18:17:02 | 超短編戯曲

   小さな結婚式場で、受付をすることになった初対面の二人。
さやか「ねえ、花嫁のドレス、見た? 超ダサくない」
山本「そんな…。(小声で)他のお客さんに聞こえますよ」
さやか「別にいいじゃん。どうせ、ちんけな結婚式なんだから」
山本「ダメですって、そんなこと言っちゃあ」
さやか「正貴も、何であんなブスにしたんだろう」
山本「ブスって。姫野さんはブスじゃないですよ」
さやか「あんた、あの女のなに?」
山本「なにって…、友達ですよ」
さやか「私、むかし正貴と付き合ってたから、あいつのこと何でも知ってんだよね」
山本「えっ!?」
さやか「そんなに驚かなくてもいいじゃん。むかしのことよ」
山本「昔って?」
さやか「あの二人、ぜったい別れるね。一年もたないんじゃないのかなぁ」
山本「そんなことないですよ。別れるなんてことは…」
さやか(山本の顔を覗き込み)「あんたさ、もしかしてあの女のこと好きなの?」
山本(動揺して)「えっ、そ、そんなことは…」
さやか「やっぱりそうなんだ。あんな女、やめときなよ。どこがいいの? どうせ今日だって、無理やり受付係を押しつけられたんでしょう」
山本「いや、それは…」
さやか「ねえ、私と付き合わない?」
山本「はい?」
さやか「いいじゃない。あんた、どうせ他に彼女いないんでしょう」
山本「あのね、突然そんなこと言われても…」
      受付に客がやって来る。
さやか「どうも、ありがとうございます。こちらにご記入下さい。(山本に微笑みかける)もうすぐ始まりますので、あちらの方でお待ち下さい」
      客が受付を離れていく。山本はどうしたものかと考え込んでいる。
さやか「ねえ、これ終わったら、二人で抜け出さない?」
山本「そんな、ダメですよ」
さやか「いいじゃん、デートしようよぉ」
山本(怒って)「もう、冗談は止めて下さい。僕は…」
さやか「わあっ、かわいいーぃ。じゃあ、式が終わってからでいいよ」
山本「なんで、僕なんかと付き合うんですか。きょう会ったばかりなのに…」
さやか「だって、あんたみたいな人、初めてなんだもん。なんか、感じるものがあるのよ。きっと、私のタイプなんだわ。そんな難しい顔しないで。お試し期間ってことで、よろしくねっ~」(とても可愛らしく微笑みかける)
<つぶやき>この男、いじられるタイプなの? 優しくしてあげてくださいね。
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1449「入れ替わり」

2024-03-07 18:01:24 | ブログ短編

 とある飲(の)み屋で知り合った若(わか)い男女。何度(なんど)か顔を合わせるうちに親(した)しくなって、どうやら意気投合(いきとうごう)したようだ。何でも話せるくらいの仲(なか)になったとき、女は男に愚痴(ぐち)をこぼした。
「もし、あたしが男だったら、もっとやりがいのある仕事(しごと)ができるのに。不公平(ふこうへい)だわ」
 男は相(あい)づちをしながら、「そうか…。君(きみ)は、男になりたいのかい?」
「えっ? いいえ、そういうことじゃなくて…。女だと、仕事で成果(せいか)を出しても認(みと)めてもらえないのよ。ぜんぶ、男が手柄(てがら)を持っていっちゃうの。もう、仕事辞(や)めちゃおうかなぁ」
 どうやら、女は酔(よ)っ払っているようだ。男は、そんな彼女にある提案(ていあん)をした。
「どうだろう…。君が受(う)け入れてくれるなら、僕(ぼく)と身体(からだ)を入れ替(か)えないかい?」
 女は首(くび)を傾(かし)げて、「あなた、何を言ってるの。そんなこと、できるわけないでしょ」
「それがね。できるんだよ。君は男になれるんだ。僕の提案に合意(ごうい)してくれればね」
 女は一笑(いっしょう)すると、「もう、あたしをからかってるの?」
「からかってなんかいないよ。君、男になって、やりがいのある仕事をやってみないか?」
 女はしばらく考(かんが)え込んでいたが、「分かった。じゃあ、あたし、男になる!」
 翌朝(よくあさ)、目を覚(さ)ました女は飛(と)び起きて言った。「ここは…どこよ? あたし…」
 そこは、どうやら男の部屋(へや)のようだ。昨夜(ゆうべ)、何があったのかまったく思い出せない。女は、身体に違和感(いわかん)を感じた。目線(めせん)を下げると、胸(むね)の膨(ふく)らみがなくなっていた。
<つぶやき>これはキャーだよ。でも、これから新しい人生(じんせい)を始めることになるんだよね。
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0003「記念写真」

2024-03-03 18:26:33 | 読切物語

 とある山の頂上付近に、一本の樫の大木が立っていた。そこからは遠くまで見渡せて、なかなかの眺めである。ここは有名な観光地でもなく、ハイキングコースにもなっていなかった。
 初夏の晴れた日。樫木の前で三脚を立てている初老の男がいた。毎年、同じ日に夫婦そろってこの場所に来て、記念写真を撮っていたのだ。もう三十年以上も続けている行事で、幸いなことに<悪天候で延期>になったことはなかった。この夫婦には二人の娘がいた。娘たちが小学生の頃までは、いつも一緒に写真を撮っていた。でも、娘たちが成長するにつれ、あまりついて来なくなった。娘たちは思っていたのかもしれない。この日は両親にとって特別な日だから、二人だけにしてあげようと。そんな娘たちもいまは嫁いで、ここ数年は夫婦二人だけに戻ってしまった。
 でも、今年はいつもと違っていた。半年前に妻が亡くなってしまったのだ。一人になってしまった男は、気が抜けてしまったように見えた。父親のことを心配した娘たちは、なにかにつけて実家に顔を出すようになった。可愛い孫たちを引き連れて。その甲斐あってか、男は元気を取り戻した。遊び回っている孫たちの笑顔を見ていると、生きる力がどこからか不思議とわいてくるのだ。
 男はもう記念写真を撮るのは止めようと思っていた。でもその日になってみると、早く目が覚めてしまってどうにも落ち着かない。妻の位牌に手を合わせて、「今日はどうしようか?」と訊いてみた。そんなこんなで、やっぱり今年も来てしまったのだ。
 男はカメラを覗いて、いつもの場所にピントを合わせた。本当ならそこには妻が立っていて、あれこれと注文をつけているはずなのに…。そう考えると、男はなんとも言えない淋しさを感じた。カバンから妻の写真を取り出すと、「さあ、撮るよ。今年も良い天気になってよかったね」とつぶやいて、カメラをタイマーに切り替えた。
 ふと、誰かに呼ばれたような気がして男は振り返った。見ると、娘たちがまだ小さな子供たちを連れてこちらへ登って来ていた。孫たちはおじいちゃんを見つけると手を振った。
「お前たち、どうしてここに?」やっとたどり着いた娘たちに男は声をかけた。
「やっぱり来てた」長女はそう言うと、「どう、私の言ったとおりでしょう」妹に向かって自慢気につぶやいた。
「はいはい。さすがお姉ちゃん。まいりました」妹は芝居がかった口調で答えると、姉妹二人で子供に戻ったように笑いあった。
 孫たちはあっけにとられている男に駆け寄ってきて、来る途中で摘んできた花を手渡した。男は孫たちのことを心配して、「大変だったろう。疲れやしなかったか?」
「大丈夫よ。私の娘だもの」次女はそう言うと、「私も小さい頃、ここに来てたじゃない」
「ねえ、いっしょに写真撮ろうよ。いいでしょう、お父さん」長女はそう言うと、子供たちをいつもの場所に連れて行き、並ばせ始めた。
「ちょっと、お姉ちゃん。そっちは私の場所でしょ。間違えないでよね」
 男はまるで昔に戻ったようで、しばらく二人のやりとりを見つめていたが、
「よし。じゃあ撮るぞ。今年は、良い写真が撮れそうだ」
<つぶやき>家族って、いるのが当たり前で…。だから、たまには抱きしめてあげよう。
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