みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1381「気まぐれ」

2023-04-27 17:33:30 | ブログ短編

 彼は悪人(あくにん)だった。さんざん人を泣(な)かせて生きてきた。そんな彼が、どういう訳(わけ)か人助(ひとだす)けをするはめになった。
 彼が街(まち)を歩いていると、路地(ろじ)の奥(おく)の人目(ひとめ)のつかない場所(ばしょ)に数人の男たちがいた。彼が何気(なにげ)なく見ていると、その中に若(わか)い娘(むすめ)が立っている。これは取(と)り立てか…、彼にはピンときた。いつもなら見て見ぬ振(ふ)りをして通り過(す)ぎるのだが、どういう訳か口を出してしまった。
 リーダーとおぼしき男が脅(おど)すように言った。「お前、誰(だれ)だ? あっちへ行ってろ」
 彼は怖(お)じ気(け)づくはずもなく、「いくらだ? 取立金(とりたてきん)は…」
「お前、同業者(どうぎょうしゃ)か? 俺(おれ)たちの邪魔(じゃま)すんなよ。それが仁義(じんぎ)ってもんじゃねぇのか?」
「それは、そうなんだけどねぇ。その金(かね)、俺が払(はら)ってやるよ。それで、勘弁(かんべん)してやって…」
「冗談(じょうだん)じゃない。この女、磨(みが)けば金になるんだよ。横取(よこど)りされてたまるか」
「そうだよねぇ。なら、元締(もとじ)めに話しをつけてもいいんだ。これから連絡(れんらく)して…」
 相手(あいて)の顔色(かおいろ)が変(か)わった。それを見て彼は、「まさか…、お前ら、元締めを通(とお)してないのか。おいおい、それはまずいぞ。もし元締めの耳(みみ)に入ったら、ただじゃすまないぞ」
 男たちは慌(あわ)てて逃(に)げ出した。それを見て、彼は薄笑(うすわら)いを浮(う)かべ、「バカなヤツらだ」
 娘は涙(なみだ)をこらえて、元彼(もとかれ)が勝手(かって)にやったことだと事情(じじょう)を話した。彼はそれを聞いて、
「じゃあ、良(い)い弁護士(べんごし)を紹介(しょうかい)してやるよ。こいつは凄腕(すごうで)で、俺も歯(は)が立たなかった」
<つぶやき>何で良いことをしてしまったのか? 彼の気まぐれか、それとも他に何か…。
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