朝。探偵事務所(たんていじむしょ)に樋口(ひぐち)みおが顔を出すと、鬼瓦刑事(おにがわらけいじ)が目黒秀所長(めぐろすぐるしょちょう)と話をしていた。鬼瓦はみおに気づくと手招(てまね)きして、この間の事件(じけん)の礼(れい)を言った。そして、
「やっぱりあの家主(やぬし)が犯人(はんにん)だったよ。被害者(ひがいしゃ)の男に脅(おど)されて、悪事(あくじ)の手伝(てつだ)いをしてたんだと。最初(さいしょ)は渋(しぶ)ってたけどな、俺(おれ)の、この、ひと睨(にら)みで白状(はくじょう)させたんだぞぉ」
自慢気(じまんげ)に話しをする鬼瓦にみおはうんざりしながらも、「それで、毒(どく)キノコはどこで…」
「ああ、あれな…。別荘(べっそう)の近くの森(もり)で見つけたんだとさ。殺した男にこき使われて、報酬(ほうしゅう)はほんの少ししかもらえない。もう殺(ころ)すしかないと思いつめてたんだと。そこへ毒キノコだ。これはもうやるしかないと…。まったくバカみたいな話しだ」
目黒が口を挟(はさ)んだ。「それで、ウチの報酬はどうなってるんだ?」
鬼瓦はとぼけたように、「警察(けいさつ)に協力(きょうりょく)するのは市民(しみん)の当然(とうぜん)の勤(つと)めだろ」
「冗談(じょうだん)じゃない。こっちも経費(けいひ)がかかってるんだ。だったら、もう二度と協力なんか――」
鬼瓦は平然(へいぜん)と言った。「別に、お前なんか必要(ひつよう)ない。樋口がいれば充分(じゅうぶん)なんだ」
「バカいえ。彼女は、ウチの事務所の戦力(せんりょく)なんだ。勝手(かって)に使われてたまるか」
この二人は旧知(きゅうち)の仲(なか)のようだ。みおはそのことを知っているのでほっとくことにした。でも、鬼瓦がみおに迫(せま)ってきて言った。「で、次の事件なんだけど、また頼(たの)めるよな?」
みおは思わず両手(りょうて)を上げて、「そ、それは…。所長に…訊(き)いて下さい」
<つぶやき>鬼瓦刑事は押(お)しが強(つよ)いというか…。でも、憎(にく)めないところもあったりしてね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。