彼女は陳列棚(ちんれつだな)に並(なら)んでいる商品(しょうひん)を見て唸(うな)っていた。どっちにしようか悩(なや)んでいるようだ。そばで所在(しょざい)なげに立っていた彼は、うんざりしたような顔で決着(けっちゃく)がつくのを待っていた。だが、どうやら彼女の決断(けつだん)にはまだ時間がかかりそうだ。彼女はひとり言のように呟(つぶや)いた。
「あああっ、どっちが良いかな? この色は好きなんだけど…、こっちのデザインも惹(ひ)かれちゃうのよねぇ。迷(まよ)っちゃうわ…。ねえ、どっちが良いと思う?」
彼女は、彼の腕(うで)をつかんで引き寄(よ)せて言った。彼は、まったく興味(きょうみ)が持てないので面倒(めんど)くさそうに答(こた)えた。「そんなこと僕(ぼく)に訊(き)かれても、分かるわけないじゃないか」
「ちゃんと答えてよ。あなたの意見(いけん)が訊きたいの。これと、こっちのなんだけど…」
「ええっ…。そうだな…、僕だったら、この右のやつかな。これ、良いと思うよ」
「これ? こっちが良いの? う~ん、そうかなぁ…。わたしは…」
「じゃあ、左のやつでもいいよ。どっちも素敵(すてき)じゃないか」
「そんなこと分かってるわよ。どっちも良いから悩んでるんじゃない」
「そんなに悩むんなら両方(りょうほう)買えばいいじゃないか」
「はぁ? なに言ってるのよ。二つは必要(ひつよう)ないでしょ。もういいわよ。あなたに訊いたのが間違(まちが)いだったのね。また今度にするわ。行きましょ」
「えっ、買わなくてもいいのかよ。じゃ、今までの時間は何だったんだ?……」
<つぶやき>女性は選(えら)ぶ楽しさを知っているんでしょうね。男性も我慢(がまん)する楽しさを…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます