「あたしね、あの雲(くも)になりたいなぁ。風の吹(ふ)くままに、いろんなとこを旅(たび)するの」
鈴音(すずね)は観光地(かんこうち)のお休み処(どころ)で、まったりと抹茶(まっちゃ)をすすった。隣(となり)にいた秋穂(あきほ)は音をたてて抹茶を飲み干(ほ)すと、「私は嫌(いや)だな。そんなの時間の無駄(むだ)よ。さあ、行くわよ。私たちにはのんびりしてる暇(ひま)はないの」
「えっ、もう少しいいじゃない。さっき座(すわ)ったばっかだよ。ここからの眺(なが)め、すっごく良いんだから、もう少しいようよ」
「あのさ、景色(けしき)なんてパッと見ればそれで充分(じゅうぶん)よ。もう、あんたのおかげで予定(よてい)がどんどん遅(おく)れてるんだから。このままだと旅館(りょかん)に着くの夜になっちゃうよ」
「そうなの? それは大変(たいへん)ね。じゃあ、行くわ」
鈴音は茶菓子(ちゃがし)を頬張(ほおば)ると、あたりをキョロキョロ見回(みまわ)して、
「ところで、ここからどうするの? バスとかあるのかなぁ」
「なに言ってるの。ここからは歩(ある)きよ。四時間かけて旅館まで歩くわよ」
「えっ! そんなこと聞いてない。ねえ、タクシーで行こうよ」
「私たちの旅の目的(もくてき)、忘れたの? 美味(おい)しいものを美味しく食べようって決めたじゃない。そのためには、お腹(なか)を空(す)かしておかなきゃ。いい、ここからが私たちの勝負(しょうぶ)よ」
「何か、それって違(ちが)うんじゃない? そこまでしなくても……」
<つぶやき>旅の目的は人それぞれです。どんな旅でも、良い思い出になるんじゃない。
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