明日は娘(むすめ)の結婚式(けっこんしき)。娘は両親(りょうしん)を前にして感謝(かんしゃ)の言葉(ことば)を――。
「お母さん、今までありがとうね。あたし、ちゃんと幸(しあわ)せになるから…。これからは一緒(いっしょ)にいられなくなっちゃうけど、あたしは、いつまでもお母さんの子供(こども)だからね。これからも、ずっと元気(げんき)でいてよ」
「ありがとう。あなたは、あたしの自慢(じまん)の娘よ。しっかりやりなさい。ふたり、仲良(なかよ)くするのよ。さぁ、もう寝(ね)なさい。明日は早いんだから…。寝坊(ねぼう)しちゃダメよ」
「そんなこと分かってるわよ。じゃあ、お休(やす)みなさい」
娘は自分(じぶん)の部屋(へや)へ行ってしまった。父親は不満(ふまん)そうに母親に愚痴(ぐち)をこぼした。
「何でだよ。俺(おれ)には何もないのか? 父親にも、何か一言(ひとこと)あっても――」
「ひがまないの。あの娘(こ)、きっと恥(は)ずかしいのよ。そういう娘(こ)だったじゃない」
その時、娘が戻(もど)ってきて父親に言った。「忘(わす)れてたけど、お父さんさ…」
父親は座(すわ)り直(なお)して、「何だ? 何でも言ってみなさい。恥ずかしいことなんか――」
「なに言ってるの? あのさ、お母さんに面倒(めんどう)かけさせないでよ。あたし、手伝(てつだ)えないんだから…。自分のことは自分でしないと。分かってる? 家事(かじ)もちゃんとやってよね」
「そ、そんなことは…分かってるよ。いや…、そういうことじゃなくて、もっと他(ほか)に…」
娘はスッキリしたように、「じゃあ、もう寝るね。お休みなさい。お父さん、明日はちゃんとしてよ。披露宴(ひろうえん)で酔(よ)っ払(ぱら)ったりしたら許(ゆる)さないから」
<つぶやき>やはり、これは恥ずかしがっているのでは…。きっとそうだと信じたいです。
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