ここでは夢(ゆめ)の実験(じっけん)が行われていた。人間(にんげん)は、どんな時にどんな夢を見るのか調(しら)べる実験だ。今日もまた被験者(ひけんしゃ)に選(えら)ばれた人が眠(ねむ)りに入ろうとしていた。隣(となり)の部屋(へや)では、教授(きょうじゅ)や助手(じょしゅ)たちがモニターを見つめている。教授が言った。
「さて、今日はどんな夢かな? 被験者にはちゃんと伝(つた)えてくれたよな」
助手がそれに答(こた)え、「はい。幸(しあわ)せなことを想像(そうぞう)しながら寝(ね)てくださいと伝えてあります」
モニターを見ていた別の助手が声を上げた。「教授、眠りに入ったようです」
教授は波形(はけい)を確認(かくにん)して、「うん。寝つきの良い人だと助(たす)かるねぇ」
しばらくすると波形が変化(へんか)して、夢に入ったようだ。教授がモニターで被験者を見ると、気持(きも)ちよさそうな寝顔(ねがお)だった。だが、どうも様子(ようす)がおかしい。何とも苦(くる)しげな顔になり、うなされているようだ。教授は首(くび)を傾(かし)げて言った。
「どういうことだ。まるで、悪夢(あくむ)でも見ているようだ。君(きみ)、すぐ起(お)こして聞(き)き取りを…」
助手が聞き取りをすると、被験者はびくびくした様子で答えた。
「実(じつ)は、ここへ来る途中(とちゅう)で奇麗(きれい)な女性と出くわしたんです。幸せなことを想像して下さいと言われたので、その人のことを思い浮(う)かべながら寝たんです」
助手は肯(うなず)きながら、「そんなに綺麗な人だったんですか? 羨(うらや)ましいなぁ」
「ええ。その人が夢に出てきたんです。でも、なぜかその顔が…妻(つま)の怒(おこ)った顔になって…」
<つぶやき>これは、よくあることかも…。男は美しいものに惹(ひ)かれちゃうものなのかも?
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