「あれぇ、一つ足(た)らないわ。おかしいわね」
吉江(よしえ)はケーキの箱を覗(のぞ)いて言った。「姫香(ひめか)、知らない?」
ルームメイトの姫香は首(くび)を横に振る。吉江は彼女の顔をじっと見て、
「まさか、つまみ食いとか、しちゃった?」
「あたし? あたしが、そんな、はしたないことするはずないじゃない。あたしを誰(だれ)だと思っているの。これでも…」
「知ってるわよ。先祖(せんぞ)は貴族(きぞく)で、お金持ちなんでしょ。でもね、嘘(うそ)はいけないと思うなぁ」
「あたしは、嘘なんかついてません。どうして、あたしを疑(うたが)うわけ?」
「だって、口元(くちもと)にクリームがついてるんだもん」
姫香は慌(あわ)てて口元を手でぬぐった。それを見た吉江は、
「やっぱり、そうなんだ。別にいいんだけどさ、みんなで食べようと思ってたから」
「あなた、あたしを欺(だま)したのね。クリームなんかついてないじゃない」
「ほんと、姫香って分かりやすいよね。そういうとこ、私、好きだよ。でもね、これからはちゃんと言ってよ。私たち、ルームメイトなんだから」
姫香はいじけるように、「だって、美味(おい)しそうなケーキだったから……。ごめんなさい」
<つぶやき>どんな人でも、美味しそうなケーキがあったら、つい手が出てしまうのです。
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