熟年新米弁理士のひとり言

平成18年に59歳で弁理士試験に合格した企業内弁理士です。弁理士試験、企業での知的財産業務について、気軽にお話します。

死蔵特許

2010-05-29 19:08:14 | Weblog
榊原憲さん著作の「死蔵特許」を読みました。

「死蔵特許」とは、権利が有効期間内の登録特許で、発明者や特許権者自身がその存在や価値を忘れている特許のことです。

この本で、取り上げられている「死蔵特許」は、フォージェント・ネットワーク社の米国特許第4698672号(以下、672特許という)です。
この672特許が、1994年にISOで正式決定され、自然画像の標準的な圧縮方式としてデジタルカメラやインターネットのHPをはじめとして、様々な分野で利用されているJPEGに関係しているというのである。

多くの企業に送付されてきた警告状に、知財担当者が驚いたのも無理はありません。
何しろ、この672特許は、JPEG標準勧告の4年以上前に登録されているので、672特許の権利化処理がなされないまま標準化されたのは、あきらかに標準化関係者のミスです。

フォージェント・ネットワーク社は、672特許のライセンス料として100億円を獲得したそうです。
すごい金額ですね。

なぜ、このような問題が発生したのか、著者は、以下の原因が考えられるとしています。

①標準化機関における特許調査の不備
②M&Aによる権利移転時の特許デューデリジェンスのし忘れ
③(特許権者は)製品開発事業がない
④発明者が職務発明対価を要求しない
⑤パテント・トロールさえも許容する米国のプロパテント戦略
⑥ビジネス倫理の低下
⑦メーカーよりも弁護士が儲かる世界になった特許

この中で、①が最も大きな原因であることには、議論の余地がないでしょう。
問題は、なぜ672特許を発見できなかったかということです。

私は、多数の企業が参加する標準化組織に問題の本質があると考えています。
1企業が単独で新商品を市場に投入する場合、知財担当者、開発者達は、必死で他社特許を調査して回避活動を行います。
何しろ特許問題が発生したときは、彼らの責任になりますからね。

これに対して、多くの企業が参加する形態では、団体責任 ⇒ 他者への依存(誰かがやってくれるだろう)⇒ 無責任体質 となる危険性があります。

私も、企業の知財部門の勤務していた時に経験したことがありますが、標準化団体へ参加している担当者に特許問題への対応を尋ねると、「それはA社の担当です」と言う返事で、詳細は把握していません。

心配になって、知り合いのA社知財マネジャーに確認すると、「それはB社が御社の担当では?」という返事でした。
結局、取りまとめている人が大雑把だと(責任感が足らないと)、672特許のような問題が発生することになります。
団体責任の本質的な問題です。

「死蔵特許」の問題は、他社特許への対応と自社特許の活用の両面から考えなければいけません。
休眠特許の活用、特許流通活動の充実が叫ばれていますが、自社特許が他社製品に使用されているか、将来使用される可能性があるか、を判断するのは、そう簡単ではありません。

私も、企業勤務時代に、このような仕事をしたことがありますが、特許の知識・経験と技術の知見との双方が備わっていないと成果を上げるのは困難です。

TLOが思ったような成果を挙げられない、特許流通委員を増員しても成果が挙がらないのは、いわゆる目利き(専門家)が少ないということでしょう。

企業や大学は、休眠特許の活用を誰彼なしに依頼するのではなく、企業で多くの経験を積んだ人に依頼する方が効果的でしょう。

もっと真剣に考えるべき問題だと思います。



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