徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツのエネルギー法改正

2015年11月04日 | 社会

ドイツのエネルギー法が改正されます。電力市場発展法・エネルギー転換のデジタル化法が11月4日に閣議決定されました。

ドイツ連邦経済・エネルギー省のプレスリリース
以下はドイツ連邦経済・エネルギー省の2015年11月4日のプレスリリースの日本語即訳(敬称略):

連邦内閣は今日後半に及ぶエネルギー政策の決議をしました。連邦経済・エネルギー相ジグマー・ガブリエルは次のように説明しました。
「今日の閣議決定で私たちは将来の電力市場のための新しい章を開きました。電力市場発展法は将来の電力市場のために一貫した市場経済的秩序の枠組みを形成します。この、90年代のエネルギー市場自由化以来最大の電力市場改革で私たちは電力市場を21世紀に適した元とします。私たちは供給安定性をヨーロッパの枠組みで考え、再生可能エネルギーを最善の方法で市場に統合させます。そのサイドを固めるようにエネルギー転換デジタル化法によって必要な革新的枠組みを形成し、電力セクターがドイツ国民経済における初の全デジタル化したセクターのひとつとなることを狙います。このことは、デジタル化によって発電、建物および交通をスマートに相互に繋いで効率化を図ることができるので重要です。」
電力市場発展法は、2015年7月1日に発表された「エネルギー転換のための電力市場白書」(英語版はこちら)及び「エネルギー転換実施を成功させるための重要ポイント報告書」の措置を実行に移します。電力市場法はその際、市場メカニズムを強化し、全ての電力提供者及び流動性オプションが競争関係にあるための枠組みを作る、というアプローチに従います。顧客から必要とされるエネルギーが実際に供給可能であるよう調整するアカウンティング・グリッド責任者の役割が強化されます。これにより未来の電力市場は再生可能エネルギーのシェア上昇においても供給安定性を維持できるようになります。
新たに規定された容量バックアップ(省令のドイツ語原文)は電力市場をさらに不測の事態から守ります。そのために市場外で4.4ギガワットまでの予備発電所がスタンドバイ状態を維持することになります。これでもともと安定したシステムがより安定したものとなります。同時にこの法律は未来の電力市場2.0をヨーロッパ内市場に嵌め込み、コスト効率を上げます。なぜなら国境を越えるキャパシティの利用は、一国内で必要とされる全てのキャパシティを維持するより抵抗すとだからです。
供給安定性及びコスト効率のほかに環境・気候保護もエネルギー政策の目的です。ドイツの2020年の気候保護目標を達成するために電力市場発展法によって供給安定準備(電位)が設置され、老朽化した褐炭火力発電所を徐々に安定準備のほうに回されます。褐炭発電所は4年間供給安定準備に留まり、その後に葉色になります。供給安定準備に移行した時点で通常二酸化炭素は排出されなくなります。このための事業者らとの政治的合意は11月2日に署名されました。この措置は同時に企業及びその従業員にとって構造破壊を回避し、構造転換を社会的及び経済的に受容しやすくなるようにすることに貢献します。
エネルギー転換のデジタル化法(法案ドイツ語原文)は電力市場発展に更なる弾みをつけることになります。同法案は電力セクターデジタル化のための技術的及びデータ保護法的な前提条件を作ります。それがなければ、「電力市場2.0」の重要な要素である、例えば負荷管理や多数の地方分散型の再生エネルギー発電施設の安全なシステム統合などが実現できません。スマートテクノロジーはつまり電力供給をよりフレキシブル、安全かつ効率的なものにするために決定的な役割を果たします。この法案は電力消費者にとって利用価値がコストよりも大きいように調整します。この意味でいわゆる「スマート・メーター」はそれに見合うだけのエネルギー効率、システムやグリッド利用価値が生まれるところにだけ導入義務が生じるようになります。
さらに追加コストは厳しい価格上限の設定により抑えられます。
データ保護はデジタルメーターシステム導入の際の膨大なデータ交換のため決定的な役割を果たすことになります。したがってこの法案は誰がどのデータを収集し、どの目的で利用することが許されるのか最終的に規定しています。義務的な保護プロファイル及び連邦情報技術安全局の技術基準によって、「スマート・メーター」のためのデータ保護及びデータ安全性に技術的に高い要求がなされています。

新法案への批判

上述の「エネルギー転換のための電力市場」白書によれば、再生可能エネルギーのシェアは2050年までに80%に引き上げられることになっています。
中間目標として、2025年までに40―45%、2035年までに55―60%という値が設定されています。
現在の再生可能エネルギーのシェアは26.2%です。詳しくは拙ブログ「ドイツの脱原発~その真実と虚構、現状 (2)」に書きましたので、ここでは割愛させていただきますが、二酸化炭素排出量削減のためには現在合わせて43.2%を占める褐炭・石炭発電所を減らす必要があります。
批判が相次いでいるのはこれらの発電所をスタンドバイ状態にして供給安定性のための柱としようとしてることに対してです。理由は、褐炭・石炭発電所はガス発電所ほどフレキシブルに稼動したり停止することができないため、予備発電所としては不適切であり、コストばかりかかるから、とのことです。更に、もともと古い発電所では色も時間の問題であったものに対しても、稼働停止に対する補償が払われることがその不合理性を高めています。

この4年のスタンドバイ期間を設けた脱褐炭・石炭政策はエネルギー効率や供給安定性の観点から見ると不合理なもの以外の何ものでもありません。ここでは、上のプレスリリースでも少し言及されていますが、急激な経済構造の破壊を回避するための経済政策的なロジックが強く働いているわけです。連邦経済・エネルギー相ジグマー・ガブリエルの属する社会民主党(SPD)は伝統的に炭鉱労働者組合と深い関係にあるため、大切な支持基盤を怒らせるような政策は採れないという事情もあります。だから脱褐炭・石炭は「徐々に」、そして4年の過渡期(スタンドバイ状態維持)をもって進める、というのがぎりぎりの妥協点なのかもしれません。その過渡期の大義名分が「供給安定性」となっているだけで、本当の理由は褐炭業界への政治的配慮なわけです。
褐炭は天然資源に乏しいドイツの数少ない国内資源なので、感情的にもなかなか褐炭との別離はできない、という面もあるかもしれません。


難民危機~バルカンルートとフランスで小さな改善

2015年11月03日 | 社会
ヨーロッパの難民対策は全体的に一向に前進していませんが、これから冬になって、難民たちの状況がさらに厳しくなるため、いくつかの対症療法が実施されました。

セルビア・クロアチア

セルビアとクロアチアは、難民たちが徒歩で両国国境を越えなくて済むように、セルビアの街シドから特別列車で難民たちを直接臨時収容施設が開設されたスラヴォンスキ・ブロドへ運ぶ協定を結びました。今日から運航開始し、1000人ほど乗せた列車が3本クロアチアに向かいました。スラヴォンスキ・ブロドに新設された臨時収容施設は5000人を収容することが可能で、暖房設備も整っています。医師も常駐し、風邪や感冒その他の病気に対応できる準備を整えています。
ただ、クロアチアに留まりたい難民は殆どいないので、臨時収容施設は登録、休憩、1泊だけの宿泊に使われることになるようです。

因みに、ハンガリーが9月半ばに国境封鎖して以来、現在まで31万2千人の難民がクロアチアを通過して、オーストリア・ドイツへ向かいました。


オーストリア・ドイツ

オーストリア・ドイツ間も一時混乱を極め、夜中に予告なしにバスで1000人単位の難民たちがドイツ国境に運ばれ、そこで降ろされた難民たちが放置される、というようなことも起こりましたが、現在は難民引き渡し地点が5か所に限られ、1時間につき各地点で50人ずつ、ドイツ側に入国できるよう取り決められました。これによりドイツ側の混雑も避けられ、もう少し丁寧な対応が可能になりました。
現在、ドイツでは国境に空港にあるようなトランジット・ゾーンを設置することが検討されています。メルケル首相に難民問題の早急な解決を求めて最後通牒を突き付けたバイエルン州首相兼連立与党キリスト教社会同盟(CSU)党首ホルスト・ゼーホーファーが主にトランジットゾーン設置を推し進めていました。メルケル首相(キリスト教民主同盟CDU党首)は当初あまり乗り気ではなかったのですが、姉妹政党党首同士がこれ以上争うわけにはいかないので、この案に合意することで手打ちにしようとしたようです。また、これまで連立パートナーである社会民主党(SPD)は監獄のようなものだから、人権上問題があるとして強硬に反対していましたが、今日は態度を多少軟化させ、具体的に案を詰めていくことに同意しました。木曜日に話し合いの場が持たれるとのことです。
具体的にどのようにトランジットゾーンが実施されるのかまだ明らかではありませんが、重要な点は、「難民申請が認定される可能性が皆無の人たちはそもそもドイツに入国させない」ということです。

フランス

フランスはバルカンルートとは無関係ですが、数か月前からユーロトンネルを通る電車やトラックに忍び込んで、あるいは徒歩でイギリスに渡ろうとする難民たちがカレーにできた「ジャングル」と呼ばれるテント村で寝起きしています。約6000人がそこに滞在していますが、きちんと管理されているわけではないので、かなり不衛生な状態です。本日パ・ド・カレー県行政裁判所は難民キャンプの状況改善のため、50か所の水場と仮設トイレを50個追加するよう指示を出しました。
また、ごみ収集システムの導入や救急車乗り入れ用路の設置及び敷地の清掃も指示。これらの指示は8日以内に実行されないと、罰金が1日遅れるごとに100ユーロ科されることになるそうです。
ユーロトンネルの侵入を防ぐための防御措置はイギリスと協力してかなり早い対応でしたが、難民キャンプの状況改善は随分とのんびりです。難民たちがイギリスに渡ろうとする最大の理由は、フランスが難民支援を十分にせず、難民審査をするでもなく彼らを放置した(している)からです。従って、テント村の状況改善したところで、そこにいる人たちにとっての根本的な問題は全く手つかずのままなのです。ないよりはあった方がまし、というだけの小さな改善です。