徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ、テロ警戒強める。パリテロ便乗いたずらもあり?

2015年11月18日 | 社会
多発テロが起こったフランスほどではないにせよ、ドイツもISの攻撃対象国となっており、隣国ということもあって警戒を強めています。
昨日はハノーファーでドイツ対オランダのサッカー試合が行われる予定でしたが、試合開始90分前に中止になり、集まりだしていた観客を追い返して、スタジアム周辺を立ち入り禁止にしました。ド・メジエール独内相は国外からの示唆を元に情報がかなり確かなものになった時っています。本人も後からちょっとうまい答えではなかったかも、と考え直したようですが、犯罪捜査と同じで、「知っていても公にできないことがあるということを国民の皆さんも理解していると思います」とフォローしています。
そして今日は私の地元ボンで2か所避難命令が出ました。一つはボン中央駅の地下鉄駅で、不審なスーツケースが見つかったとのことでした。地下鉄は運行停止。客は構外に誘導され、代用バスが出されました。結局何もなかったようです。
もう一件はまだ続行中で、地元紙ゲネラルアンツァイガーによれば、容疑者はOBIというホームセンターの従業員に「店の中に爆弾がある」と脅したようです。その後、捜索犬を投入して爆弾を探したものの、何も発見されなかったとのこと。警察はホームセンターの駐車場だけでなく、周辺道路も封鎖しました。店内放送で、「機械の故障のため」すぐに外に出るように客が促されたのは14:45でした。18時過ぎの時点で状況変化なしのままでした。車で来ていた客たちはいつ自分の車のところに行けるのかとずっと待っているようです。テロの犠牲になることと比べれば何でもないことではありますが、実に腹立たしい状況であることは確かですね。
「爆弾がある」と言った人が誰だったのかもまだ不明です。愉快犯である可能性も無きにしも非ずです。

一方、フランスでは本日、襲撃対象の一つだったサッカースタジアムと同じSaint Denis地区で大規模捜査が行われ、7人が逮捕され、2人死亡したようです。うち1人は爆弾ベルトを着けて自爆した女性だったとのこと。金曜日のテロ襲撃現場に捨てられていた携帯電話のデータからSaint Denisにあるアパートの情報が得られたため今日の家宅捜査行動となりましたが、相手側も防戦の構えを見せた、とのことです。周辺住民は外へ出ないように指示され、学校や幼稚園も臨時休業、地下鉄やバスも運行中止にされました。もしかすると、これでもう一つのテロを防ぐことができたのではないかと見られています。金曜日のテロの首謀者と見られているAbdelhamid Abaaoudは逮捕者の中にはいなかったそうです。ワシントン・ポストなどは彼が既に死んでいると報じたらしいですが、確認はまだされていません。
Saint Denisは移民などの外国人が多い地区で、失業率も高く、特に最近では若者の過激化が進んでいるらしいです。なんというか、典型的な不満分子の巣窟のようですね。若者のための教育的文化的プログラムがこういう地域では特に急務です。

さて、今回の件も911やシャルリー・エブドー事件のように「やらせ」とか「アメリカの自作自演」などという噂がネットで飛びかってますが、私はそういう噂は基本的に眉唾物だと考えていますし、相手にするだけばからしいと思っています。
フランスは昨日EU国防相会議で史上初めて、EU契約第42条第7項(「EU加盟国の領土への武力攻撃があった場合には他の加盟国は当該国に可能な限りのあらゆる扶助支援をする義務を負う」)に基づく支援を正式に要請しました。全てのEU国がその場で支援を約束しましたが、ISに対する軍事行動を共にすると宣言した国は皆無です。支援を具体化するのは今後の2国間交渉で、ということですが、ドイツは現在フランスが行っているマリでの平和維持活動を引き継ぐことで、フランス軍の負担軽減に貢献することを既に提案しています。ドイツはこれまでISとの戦い方も米・仏と一線を画しており、ISと現地で戦っているクルド人グループ、ペシュメルガに武器提供や訓練などで支援するという形をとっています。
またNATO同盟事態となるか懸念されていましたが、今回はどうやらそれもなさそうです。まず、オバマ米大統領はG20サミット上で、地上部隊の派遣を否定しました。(それなのになぜ「軍事介入のためのアメリカの自作自演」となるのか理解不能です。)また、トルコも対IS有志連合に名を連ねてはいますが、戦いの対象となっているのはISと敵対しているクルド人のうちの特にトルコのクルド人組織PKKに関係の深いグループです。つまり間接的にISに利するような行動を行っているので、アフガニスタンの時のようにNATO加盟国の利益をまとめることはより困難となります。恐らくそれが理由で、フランスはひとまずEUに支援を求めたのでしょう。しかし、EU内でも軍事行動に関しては慎重論が今のところ支配的です。

今回の同時多発テロは、すでにフランスが去年イラク空爆を開始する以前の議論で十分に予想されていたことでした。フランス10の2014年10月20日の記事「フランス保守派から左派までがイスラム国・空爆に反対する3つの理由」がそれを端的に示しています:
(1)軍事介入によってフランスを狙ったテロの危険性が増す
(2)空爆は問題を解決しない
(3)フランスはNATOの枠組み内で行動すべきだ。

(1)は既に始まっています。
(2)はアフガニスタンでの14年間がそれを証明しています。
(3)が本来理由ではなく提案であるのはこの際目をつぶっておきましょう。
今後、どのように事態が推移するか分かりませんが、勇ましい戦争レトリックの割には大した「一致団結」軍事行動にはならないと考えられます。むしろEUは難民登録データの即時交換を急ぎ、入国コントロールを厳格化し、怪しげな偽装(?)難民の監視を強化するなどの方向で収束するのではないかと思います。その中でフランスの勇ましさは孤立するのではないでしょうか。これはもしかすると安倍政権下の日本が存在感を示すチャンスになるかもしれませんが(そうならないことを祈ります)。