徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ空軍対ISシリア介入閣議決定。テロと難民問題、出口なし。

2015年11月26日 | 社会
ドイツの軍事介入

フランスのEU契約第42条第7項(「EU加盟国の領土への武力攻撃があった場合には他の加盟国は当該国に可能な限りのあらゆる扶助支援をする義務を負う」)に基づく支援要請を受け、ドイツはフランス軍の負担軽減に貢献するため、マリの平和維持活動を積極的に引き継ぐことをすぐに提供しましたが、それだけでは足りないとフランス側の要求があり、ドイツ政府は今日、高性能カメラ搭載の偵察機レッケ・トルネードを6機、戦艦1隻、給油機、及び衛星偵察機をシリアに派遣することを決定しました。まだ連邦議会の承認が必要ですが、3大政党連立政権であるため、承認は確実と見られています。野党の左翼政党は、国連委任がないことから軍事介入は国際法違反であり、テロを増長させ、ドイツ国内のテロリスクを上げることになる、と反対しています。緑の党は絶対に反対というわけではありませんが、法的根拠があるかどうか審議する、とのことでした。
ドイツでは一般的に軍事介入に対して懐疑的な見方が支配的です。アフガニスタン、イラク、リビアなど軍事介入、特にテロに対する空爆が平和をもたらしたことはなく、失敗例として政治家たちの記憶にも深く刻まれています。そのため、シリア介入もフランスの強い要請がなければ後方支援に徹していたことでしょう。強い要請があってすら偵察機を飛ばすという軍事行動ではあっても、直接攻撃ではない介入しか検討されていないところに、ドイツの慎重さ、積極的な軍事行動を求める側からすれば、≪煮え切らなさ≫が明かになっています。
実際、シリアでの将来的ビジョンが不明瞭です。
対IS、という点では西側諸国もロシアも一致していますが、仮にISを殲滅できたとしても、シリアに安定をもたらすことはできません。アサドを暫定的に続投するか否かで西側とロシア・イランで意見がかみ合いません。
アサド政権を打倒するためにアメリカ、トルコ、サウジアラビアやカタールなどがISに近い反政府勢力を支援し、結果的にISを大きく育ててしまった背景もありますし、アメリカの支援を受けているクルド民族防衛隊YPGにはトルコがあまりいい顔をせず、また違うクルド人勢力PKKに至ってはトルコが直接攻撃を加えています。クルド人問題をある程度解決しないと、シリア北部は不安定なままで、ISに対する隙を作ってしまうことになるでしょう。イラク同様に前世紀に恣意的に引かれた国境線を変更せず、分割統治も認めず、では犠牲者が増えるばかりで何の解決にもなりません。トルコが先日領空侵犯したというロシア戦闘機を撃墜したおかげで、さらに余計な緊張が高まってしまっています。

難民問題

メルケル独首相は、難民政策に関して、パリ同時多発テロ以降特に相当の政治的な圧力にさらされていますが、それでも他国のように難民受け入れの上限を規定することを拒否し続けています。彼女はEUレベルでの対策、即ちEU外境警備強化、安定的な難民分配メカニズムなどに問題解決の道を見出しており、ドイツ一国での国境閉鎖などの対応には意味がない、としています。それでも、不認可難民の送還プログラムは着々と実行されています。ドイツの亡命法改定については、拙ブログ、『難民危機~ドイツ亡命法厳格化本日連邦議会で可決』を参照してください。

とはいえ、周辺国では明らかに難民政策に変化が出てきています。
マケドニア、セルビア、クロアチア、スロヴェニアのバルカンルート4か国は難民認定の可能性の低い難民たちを入国させない方針を採っています。ダブリン協定2によれば、難民は最初に入ったEU国で難民申請をしなければならず、他のEU加盟国に行って難民申請しても、最初に入国したEU国に送還されることになっています。従って、ドイツやオーストリアが難民たちをスロヴェニアに送還する可能性も理論上はあるので、スロヴェニアがシリア、イラク、アフガニスタンの紛争3か国出身者のみ入国・通過を許可する方針を採りました。それを受けて、自国にバルカンルート上の次の国に入国できない難民たちの渋滞が起こるのを怖れたマケドニア、セルビア、クロアチアの3国がスロヴェニアの方針を次々採用していきました。これによって、オーストリア・ドイツに入ってくる難民たちの流れがかなり緩やかになりました。
もちろん、国連難民支援団体などはこれを厳しく批判しています。冬のさなかに何千人もの難民たちが宿泊施設も食料も何も支援を受け入れないままバルカンに漂着する危険があるからです。いわゆる「経済難民」の中には諦めて帰国する人たちもいるかもしれませんが、遠方からはるばるヨーロッパを目指してきた人たちは往々にして資金も尽いて、後戻りすることができなくなっています。この人たちを寒空の中放置するのはどう考えても人道的に問題があります。
セルビアには現在約1500人、ギリシャ・マケドニア国境のギリシャ側には約2000人の難民が足止めされているそうです(ターゲスシャウ、2015.11.21の記事より)。

2日前、ノルウェー、デンマークに続きスウェーデンも亡命法をEUスタンダードに適合、即ち厳格化することを決定しました。有効期間はひとまず3年間。
「過去2か月間で8万人の難民がスウェーデンに来ました。誠に遺憾ですが、我が国はこのレベルでさらなる難民を受け入れることはできません」とステファン・レーヴン首相は記者会見で発言。
具体的には、難民認定を受けて滞在許可を得る人数が制限され、滞在許可も期限付きになる場合が増え、また家族の呼び寄せが難しくなります。更にバスや電車内での検問が強化されるとのことです。スウェーデンは今年19万人の難民申請を予想しています(シュピーゲル・オンライン、2015.11.24の記事より)。

テロ対策

現在、難民問題と切っても切れないのがテロの問題です。かねてより、難民に紛れてヨーロッパに入るテロリストの危険が警告されていましたが、パリの同時多発テロがヨーロッパの諜報機関同士の協力の不十分さを白日の下に晒すことになってしまいました。先週のSaint Denisで銃殺されたパリ同時多発テロ首謀者と見られているAbdelhamid Abaaoud(28)はシリアに居るものとフランス警察・諜報機関では考えられていましたが、実はギリシャで難民の中に紛れていたことが目撃されていました。その情報がフランス側に提供されたのはテロが起こった後のことです。もう一人、Stade de Franceで自爆したテロリストはAhmad al-Mohammad(25)という人物のパスポートを持っており、死体の指紋とこのパスポートがギリシャ及びセルビアで登録された際の指紋と一致していることから、パスポートが本物かどうかはともかく、バルカンルートを通ってフランスに来たことは明らかになっています。テロ警戒のため、難民多しと言えど、若い家族連れでない男性の指紋はかなり徹底して採取する方針が以前から採られていたため、ことが起こってからなら、このように犯人の行動をトレースすることが可能ですが、テロ防止には残念ながら全く役に立っていません。ドイツでも一日に何件も難民の中に紛れている疑わしい人物の通報があるそうですが、ド・メジエール独内相によれば、通報の件を捜査しても、今まで実際に何か出てきたことはないとのことです。やはり危険性がより高いのは国内のイスラム過激派のようです。パリのテロでも襲撃者の大半はフランス国籍あるいはベルギー国籍で、しかも、以前からイスラム過激派として当局の監視対象となっていました。つまり、当局の監視が不十分だったためにテロを未然に防げなかった、と言えるわけです。
非常事態下にあるフランスだけでなく、ベルギーも先週末からテロ警戒レベル4と最高警戒レベルがブリュッセルで発動し、地下鉄・バスは運行停止、幼稚園や学校は閉校するなど、厳戒態勢が採られていました。今日から警戒レベルが3に下げられ、学校や地下鉄などの運行が再開されましたが、まだ重装備の警察及び軍隊が捜査及びパトロールに投入されています。
ドイツではフランスやベルギー程の厳戒態勢は採られていませんが、サッカー試合やこれから始まる各地のクリスマス市ではかなりの警戒態勢が採られています。クリスマス市での大きなバッグやリュックなどは禁止されました。また警察が学校の子どもたちに駅やバス停などで持ち主がいないかばんや荷物を見つけた時にどう対処すべきかという指導を行ったりしています。
逮捕者も少ないですが、今日はベルリンのノイケルン地区のモスクで家宅捜査が行われ、シリア人とチュニジア人の二人がドルトムントでのテロ襲撃を計画した容疑で逮捕されました。しばらくはこのようなイスラム過激派のアジトと目されている所や危険人物と目されている人たちの捜査や逮捕が続くようです。ドイツではまだフランスやベルギーのように武器の押収には成功してませんが。
難民対策にテロ対策、そして反難民関連犯罪対策でドイツ警察は悲鳴を上げています。警察官絶賛募集中で、早急に増員を実現するために、これまで不採用基準の一つであった「見えるところにある刺青」も無くなったとのことです。そんな基準があったのか、とちょっと驚きましたが、それが無くなることで本当に採用される人数が増えるのかは疑問ですね。