徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

シェンゲン協定瓦解(?)とパリの同時多発テロ

2015年11月14日 | 社会
シェンゲン協定

止まらない難民のヨーロッパ流入はシェンゲン協定を瓦解させようとしています。

ハンガリーが国境封鎖したのを皮切りにシェンゲン協定加盟国が次々と国境検問を行うようになり、11月12日はついにスウェーデンも国境検問を始めることになりました。パスポートがない人の入国は許されず、追い返されることになります。これはスウェーデンのこれまでの開かれた移民・難民政策の転換を意味する、と解釈されています。この為、キールやロストックなどの北ドイツの都市ではスウェーデンに渡航したくてもできなくなってしまった難民たちのために急遽宿泊施設を増設せざるを得ませんでした。
スロヴェニアもオーストリアも検問だけでなく有刺鉄線の柵を設置しました。
これにより、『国境なきヨーロッパ』、旅行の自由は制限されてしまいましたが、シェンゲン協定もこれで瓦解したのかというと、そうではありません。シェンゲン協定において、国境検問が禁止されているわけではないからです。非常事態や特別な催しなどの際して一時的に国境検問を行うことは許されています。この為フランスも11月13日から世界環境サミットに向けて国境検問を開始しています。
その矢先にパリのテロ事件は起こりました。そして、このテロを機にフランスに接するドイツ・ザールラント州、オランダ、スイス・ルツェルンなどで国境検問が始まりました。こうした越境する犯罪者対策として個々の点で検問を行うことはシェンゲン協定の国境規範第21条によって認められています。また本格的な国境検問も公衆秩序を守るために行うことは可能です。しかし、これは通常10日間のみ有効で、最大2か月まで延長することができます。
また大規模な催し物のための国境検問は通常30日間まで有効です。

ハンガリーの国境封鎖はそのような短期間で取り除かれるようなものではなく、かなりしっかりした作りになっていますが、これも実は必ずしもシェンゲン協定違反にならないのです。
2013年の『アラブの春』以来、北アフリカからの難民増加に備えて、シェンゲン協定加盟国は2年までの国境検問を可能にすることに合意しました。その条件として他のEU加盟国の同意が必要です。この非常事態条項は当時、ドイツの強い要請で導入されました。
今のところ長期にわたる非常時国境検問導入申請はどの国からも正式に出されてはいません。従って、ハンガリーの国境封鎖も、少なくともシェンゲン国スロヴェニアとの国境ではそろそろ協定違反になってきます。


青はシェンゲン協定加盟EU国。薄い青はシェンゲン協定加盟・非EU国。黄緑はシェンゲン協定加盟予定国。緑のイギリスは「協力国」。

パリの同時多発テロ
11月13日金曜日、夜9時過ぎに始まった同時多発テロ。パリの8か所でほぼ同時に爆撃や銃撃などがあり、ロックコンサートの会場となっていたBataclanコンサートホールが一番多く、80名以上の犠牲者が出ました。今のところ死者は128名、負傷者180名だそうです。
この場を借りて、犠牲者の方々のご冥福を祈ります。


ISがインターネットのビデオで、犯行声明を出しました。その証拠はまだ出ていないそうですが、恐らくISの仕業であろうというのが仏警察当局の見解です。IS側がこれが『嵐の始まりである』と脅しています。
各国の反応は2001年の911事件の時や今年1月に起きたシャルリー・エブドー襲撃事件の時と似たような感じでした。声を揃えてテロを批判し、フランスに同情と友情、更なるテロ対策での協力を約束するなど。これにデジャヴューを覚える人は私だけではないでしょう。
犯人の一人の遺留品の中にシリアのパスポートがあったそうですが、恐らく偽造パスポートだろうというのが当局の見解です。
しかし、それが、反難民・反イスラムの人たちに格好のエサを与えてしまうのは確かです。テレビなどでは必死に難民たちはまさしくこのISのテロから逃げてきたのだから、彼らにテロの責任を押し付けないように、と訴えていますが、それは正しいとは言えません。なぜならシリア人の多くはISではなく、アサド政権のバレル爆弾テロから逃げてきたのですから。
いずれにせよ、「反難民・反イスラム」などを主張するような人たちには細かい区別などつけられるような人などほとんどいません。だからこそ反難民・反イスラムであり得る、ともいえます。なぜなら、難民はイスラム教徒とは限りませんし、また難民の犯罪率も特に高いわけではないからです。難民=ムスリムあるいは難民=テロリストなど、様々な決めつけや思い込みが拒否反応と差別の温床となるのであって、冷静に細かい観察眼のある人には一緒くたにされたある集団に対する差別意識というものがばからしいもの以外の何物でもないのです。ただ、世の中には残念ながらまともに詳細な情報を集め、深く考える人は少なく、大衆は碌に思考しません。なので、いかに啓蒙活動をしようと、テロにはテロを返そうとする人たちが出てくるのは避けられません。それで犠牲になる他人の命をどうでもよいと考えるその思考パターンはISテロリストと共通していると言えるでしょう。今後そういう人たちがどんどん日常を脅かしていくと予想されるのが遺憾でなりません。
難民問題の解決のめどもつかず、対症療法ですら朝令暮改の体を示しているドイツ政府を見ると失望するばかりです。EUとアフリカ諸国やトルコとの交渉も先行きは不透明ですし、有効な対策が取られる可能性は低いものと思われます。

フランスはアメリカと共にISを爆撃している国です。日本も安倍晋三首相がISにご丁寧に宣戦布告したので、集団的自衛権の行使とともに、いつこのようなテロに見舞われるか分かりません。日本本土でのテロの確率は恐らくそれほど高くないのでしょうが、在外邦人への攻撃は十分に予想されています。次の選挙の時はこのことを日本の有権者にしっかりと考えて投票してほしいと思います。

テロ対策は地道に未然に防ぐ努力をする以外ないと思います。報復が何も生まないことはアフガニスタンで証明済みです。オサマ・ビン・ラデンを片づけるまでにも時間がかかりましたが、片づけたからと言って何か解決したわけではなく、アフガニスタンは再びタリバン復活を許してるじゃないですか。
イラクを空爆して、サダム・フセインを駆除して、何かいいことありましたか? イラクは内戦のままです。そして旧サダム派の人たちが大量に(武器も持って)ISに流れたわけです。 
その裏に武器を売って使わせたいロックフェラー財閥が潜んでいる、という陰謀論もあながち根も葉もないことではないと思えます。戦争を起こさせようという意志みたいなものを感じることがあります。