徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:小出裕章著、『原発のウソ』(扶桑社BOOKS)

2017年07月01日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

小出裕章著、『原発のウソ』(扶桑社BOOKS)は、東日本大震災・福島第一原発事故の起きた2011年5月に発行された本です。「原発のコストは高い」「“安全な被曝量”は存在しない」「原発を全部止めても電気は足りる」など、日本政府や電力会社が振りまいてきたウソを暴くと同時に、福島で起きていることまた起こり得ることなども書かれており、ネットラジオ「種まきジャーナル」や「自由なラジオ Lightupジャーナル」などで小出氏の言葉を繰り返し聞いている人にとっては馴染みのある内容も多くあります。

この本には「図解」版もあるので、まだ購入を見合わせている方には『図解 原発のウソ』のほうをお勧めします。こちらは2012年発行で、『原発のウソ』に図や表をさらに追加したものだそうです。

以下は『原発のウソ』の目次です。第2レベルの見出しは省略。

まえがき 起きてしまった過去は変えられないが、未来は変えられる

第1章 福島第一原発はこれからどうなるのか

第2章 放射能とはどういうものか

第3章 放射能汚染から身を守るには

第4章 原発の”常識”は非常識

第5章 原子力は「未来のエネルギー」か?

第6章 地震列島・日本に原発を建ててはいけない

第7章 原子力に未来はない

原発が二酸化炭素を発生させない「クリーンな」エネルギーであるというのが全くのウソであることはそれなりに知識を備えた方にとってはもはや常識ですが、原子力ムラの方でも嘘がつき続けられないと考え始めたのか、「原子力は『発電時に』二酸化炭素を出さない」と、いつの間にか『発電時に』という文言が加えられるようになったことが、第4章で指摘されています。なるほどこれなら確かに完全な嘘ではありません。ただし「環境にやさしい」という結論はもちろん導き出すことは不可能です。なぜなら同章で指摘されているように発電に至るまでとおよび発電後の処理で原子力発電は大量のエネルギーと資源を消費し、大量の二酸化炭素も発生させるからです。「核のゴミ」の処理など言うまでもありません。

知らなかったのは、日本広告審査機構(JARO)が2008年11月に次のような裁定を下していることです(第4章~JAROの裁定を無視して続けられた「エコ」CMより):

「今回の雑誌広告においては、原子力発電あるいは放射性降下物等の安全性について一切の説明なしに、発電の際に二酸化炭素を出さないことだけを捉えて『クリーン』と表現しているため、疑念を持つ一般消費者も少なくないと考えられる。今後は原子力発電の地球環境に及ぼす影響や安全性について十分な説明なしに、発電の際に二酸化炭素を出さないことだけを限定的に捉えて『クリーン』と表現すべきではないと考える」

悲しいかな、JAROには法的拘束力がないので、この裁定後も原子力ムラ・政府広報はこれを無視して、今に至るまで「原子力=クリーン」のイメージで売り続けています。これを「ウソだ」とはねのけるだけのリテラシーが消費者側に求められていると言えます。騙される側にも責任があるのです。

原発の排熱もかなりの環境汚染です。小出氏は恩師の水戸氏を引用して、原発を【海温め装置】と呼んでいます。原発が発生させる熱の3分の1が電力になり、残りの3分の2が排熱として海に排出されているからです。その量は何と毎秒約70トン。1秒間に70トンの海水を引き込んで、その温度を7度上げてまた海に戻していると言います(第4章~地球を温め続ける原発より)。

日本全国の河川の流量は年間約4000億トン。日本には現在54基の原発があり、それから流れて来る7度温かい水は年間約1000億トン。量の比率から見ても環境に影響がない方がおかしいと言えます。

エルニーニョ現象においてさえ、通常の海水温よりも1-2度上昇するくらいで大変な影響が出ます。20世紀最大規模の1997-1998年に起きたエルニーニョ現象では水温が5度上昇し、甚大な被害を出しました。そのスキームで「毎秒70トンを7度温めて海に戻す」ことを考えれば、「7度」の重大さも理解できます。もちろん影響はエルニーニョ現象などに比べて原発近海の局所に限られたことではあるでしょうが、周辺環境に悪影響を及ぼすことには違いないので、地球温暖化や環境保護のために原子力を推進するなど「矛盾」どころか、まるで逆効果です。

第5章では、破綻した核燃料サイクル計画によって生じた大量の余剰プルトニウムを処理するためにプルサーマル計画が始動したことと、その際に使用されるMOX燃料の危険性などが論じられています。よくもまあ、行き当たりばったりの対症療法的計画をこの上なく危険な物質でやってくれる、と呆れるばかりです。

この杜撰さは、先日の茨城県大洗町の日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターで作業員が被曝した事故にも表れています。クローズアップ現代の6月20日放映「プルトニウム被ばく事故 ~ずさんな管理はなぜ?~」で核燃料のずさんな管理の実態が暴かれています。ビデオはこちら

これでもなお、「日本の原発は安全です」「安全管理をきちんとしてます」「世界一厳しい安全審査を実施」などの文言を信じられますか?これを信じ続けるには、どこまで能天気だったらいいのか分かりません。

「杜撰大国」日本。その杜撰さを暴くことは特別秘密保護法で阻害され、その杜撰さに抗議するものは「共謀罪」で抑え込まれる。そんな状況にならないように祈らずにはいられません。


書評:小出裕章著、『騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実』(幻冬舎)

書評:一ノ宮美成・小出裕章・鈴木智彦・広瀬隆他著、『原発再稼働の深い闇』(宝島社新書)

書評:小出裕章&西尾正道著、『被ばく列島~放射線医療と原子炉』(角川oneテーマ21)