徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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武田晴人著、『日本人の経済観念 日本の50年 日本の200年』(岩波書店)1999/06/25

2023年10月09日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

この本は、十数年前、古本屋で買ったと記憶しています。ずいぶんと長いこと積読本のままでしたが、ついに手を付けて完読しました。
本書の興味深いところは「日本人は勤勉」とか「日本型経済の特異性」だとか、そういったイメージを歴史的な資料を基に検証するところです。
イメージはイメージに過ぎないことがよく分かります。江戸時代や明治時代初期の産業構造と明治時代後期ではすでに様相が違っているし、歴史的資料から明治初期の熟練職工たちは、たとえ工場で働いていても自立性を維持し、自分にとって十分な収入を得た後は出勤しないこともざらにあり、欠勤率が常時15パーセント前後だったというから驚きです。
「おしん」などのドラマや文学作品で語られる女工たちの長時間労働は、勤勉だからというよりは、貧困ゆえにそうせざるを得なかったという外的要因によるものだったと見るべきだというのが著者の見解です。

また、三井家の内部選抜制度が時代を経て、現代の大企業や官庁における内部選抜制度(出世競争)と敗者の受け皿としての子会社出向や天下りに継承されている、少なくとも類似性が高いという指摘も興味深いです。
それ以外では「終身雇用」というのは昭和の一時期に限られており、明治・大正時代は工場労働者も鉱山労働者・鉱夫たちも2・3年程度で勤め先を変えるのが普通だったというのも面白いですね。


目次
はしがき
第一章 企業と出資者
第二章 市場と競争
第三章 契約と紛争解決
第四章 労働の規律と雇用の保障
第五章 国益と政府
おわりに