このところ小説ばっかり読んでましたが、ようやく随分前に買った小出裕章&西尾正道著、『被ばく列島』(角川oneテーマ21)に辿り着きました。初版は2014年10月で、反原発運動でお馴染の元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏と北海道がんセンター名誉院長で放射線治療医の西尾正道氏の対談形式となっています。と言っても専門分野が大分違うので、実際に対話されている部分はごく一部で、後はそれぞれに自分の専門領域のことを執筆なさったようです。この本の中では様々な被曝の問題や原子力ムラや医療ムラなどの構造的問題などが広く言及されていますが、個々の問題を深く掘り下げることはありません。207pの小冊子ですので、あくまでも入門書という位置づけですね。
どのような問題点が扱われているのかは目次を見れば一目瞭然なので、目次を書き出します。
プロローグ ― 3.11福島原発事故から3年経って
放射性物質で汚れた国土には住めない
医学の進歩の原動力である放射線診断学
国際原子力ムラと医療ムラの構造を明らかにせよ
第1章 そもそも放射線とは? 被爆の実態に向き合う
「能動的な毒物」の放射性物質とは何か?
健康被害と内部被ばく
放射線防護学は疑似科学
例えばセシウムが体内に取り込まれたら
外部被ばくと内部被ばくはどう違うか
第2章 世界一の医療被ばく国、ニッポン
今の医療現場は放射線を使い過ぎでは?
「がんの3.2%は診断による被ばくが原因」
がん診断に有効なPETにも、こんな心配事がある
放射線による緩和治療の実情
原発の立地周辺地域でも、がんが多発しているーー北海道泊村のデータ
第3章 原発事故における被ばくとの格闘 福島で何が起こっているか
実測値を計れ
甲状腺がんの問題については
低線量地域に住み続けるということ
セシウム・ホットパーティクルに注目せよ
瓦礫を燃やした結果
ガラスバッチの罠
低線量被ばくに関する「ペトカウ効果」とは?
放射能汚染水処理のデタラメさ
除染についても物申したい
放射線の概念とその単位
放射線のエネルギーの問題を看過するな
海洋汚染は、なぜ深刻か
地球上にばら撒かれてきた放射性物質セシウムとストロンチウム
溢れてくる放射能汚染水の量は予測がつかない
食品汚染にどう対応するか
私が第一次産業を守りたい理由
「60禁」のすすめーー子どもたちを守ろう!
第4章 原発の安全・安心神話を語るのは誰か
ただの民間機関にすぎないICRP
チェルノブイリ事故後にできたECRRの主張とは
ゴフマンの「被ばくの危険度」の評価について
事故後の鼻血の問題について
広島原爆におけるABCCの疫学研究には問題あり
ICRPの基準とECRRの基準はなぜ違うのか?
第5章 原発作業員や放射線医療従事者を被ばくから守れ
原発作業員たちは被ばくからどう守られているのか
放射線の専門家はどう育てられているのか
第6章 放射性廃棄物をどう処理するか
核廃棄物のトイレはどうするか
そもそも核の無害化技術は、実現性なし
医者の立場からすれば、放射性医薬品にはメリットがある
第7章 日本は世界の流れから取り残されていないか
米国の原発が止まる
撤退すすむ先進国の原子力産業
世界に売りつける日本の原子力メーカー
なぜ失敗ばかりの高速増殖炉を続けるのか
どうしてもプルトニウムを懐に入れたい日本
日本の医療のいい面を自覚せよ
TPPは医療がターゲットだ!
終章 私たちはこれから、放射線とどう向き合うか 後世の子孫への責任
胎児とお母さんの被ばくについて思うこと
細胞の放射線感受性についての「ベルゴニー・トリボンドの法則」を知ろう
今後どうするかーー生き方や文明論の見直しのきっかけに
被ばくがもたらしたものーーがんが増えだしたのは明らかに戦後から
若い人たちへのお願い
提言ーーこれからの原発と医療のあり方
あとがき 小出裕章
巻末資料1~4
いろいろな問題が指摘されていますが、中でも姑息なのは「ガラスバッチ」です。これは個人用の蛍光ガラス線量計で、個人が受けた積算放射線量の計測のために使われるものですが、その中にある特殊ガラス素材が放射線に当たると、紫外線窒素レーザーを照射した際に発光するので、その蛍光量を測定することで、被曝線量を測ることになっています。外部被曝の線量は、1㎝の深さの線量で代替えするので、空間線量率からの計算と比べると低い値となり、被曝推定値の約60%となります(p69)。事故直後ならともかく、時間が経過すると、実際に被曝した線量の1/4程度しか出ないし、さらに低線量地域では感光限界の問題もあり、1/20以下となるとも言われています(p70)。この低く出た測定値を振りかざして、帰還政策の一つとして利用する政府は実に姑息です。
またICRPなどの内部被曝を無視したやり方にも西尾氏は反論します。内部被ばくも含めた全ての被ばくを全身で均質的に被ばくする前提で議論する事に対して、実際の放射線治療で放射線源が局所的に露出される患部だけに作用されることを例に出した反論です。すなわち、原発事故由来の放射性物質が実際に体内に摂取される場合には、その物質が直接的に接する箇所が局所的に被ばくするのであって全身均一的にモデル化するのは間違いだ、ということです。
汚染食品に関する西尾氏の言葉(p169):
「皆さんは、これでよいのでしょうか。日本人は放射性物質と農薬を含んだ食品を食べ、さらに遺伝子組み換え食品も多くなっており、世界一危険なものを食べています。そして継続し深刻化する海洋汚染により魚介類も危険なものとなってきているのですが、問題意識が無さすぎます。恵まれた美味しいものを食していると思いますが、実は世界一体に悪いものを食べているのかもしれません。」
世界一かどうかはともかく、日本の食品の危なさには常々心配しているところです。農薬・遺伝子組み換えばかりではなく、添加物の多さも呆れるばかりです。プラス放射能汚染です。こと発がん性に関しては、余りの発がん性物質の多さに、放射能の影響を抽出することがより困難なのではないかと思えるくらいです。
「今の日本は、①哲学なき日本、②品性なき日本、③見識なき日本、④人倫なき日本、⑤責任なき日本、⑥先見なき日本、⑦知足なき日本、の状態ですね。」(p177)
との西尾氏の言葉に100回くらい署名したいですね。