徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:住野よる著、『また、同じ夢を見ていた』(双葉社)

2019年01月09日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『また、同じ夢を見ていた』(2016)は年末年始に日本に帰省中に本屋で見かけたので、同著者の『君の膵臓をたべたい』(2015)と一緒に買いました。

主人公・小柳奈ノ花(こやなぎなのか)が繰り返し見る夢。小学校でクラスに友達はいなかったけれど、大好きなひとみ先生、唯一本のことを話せる荻原くん、隣の席の絵をかくのが上手な(だけどそれを隠そうとする)桐生くんがいた。そして放課後は尻尾のちぎれた黒い彼女(猫)と「しーあわせはーあーるいてこないー」「ナーナー」と歌いながら訪ねていける「友達」がいたーークリーム色のアパートに住むかっこいい「アバズレ」さん、空っぽの建物の屋上にいる手首に傷をつけてた「南」さん、そして1人暮らしの「おばあさん」。国語の授業で「幸せとは何か」を考える課題があり、夏休み前の発表の日までたくさん考えてアバズレさんや南さんやおばあさんの意見も聞いた。桐生くんのお父さんが泥棒をしたと噂になり、言い返さない彼の代わりにクラスの男子とけんかした。桐生くんはその日から学校に来なくなった。私はクラスの子たちに無視されるようになった。味方になろうと思った桐生くんに「一番嫌い」と言われた。本当の思いやりとは何か、そして幸せとは、人生とは何かを一所懸命考えて行動し、この試練を乗り越えた。アバズレさん、南さん、おばあさん、そして尻尾のちぎれた彼女とはある日を境に急に会えなくなった。彼女たちの痕跡すら夢のように消えてしまった不思議。彼女たちはあり得たかもしれない奈ノ花の未来の姿だった。そして今、あの頃に考え抜いた幸せの定義が変わっていないことを確かめながら、自分が幸せかを問う。

奈ノ花の賢くて、クラスのみんなは馬鹿だと考える傲慢さは、自分の子ども時代を見るようでいささか苦い・しょっぱい思いを抱きながら読みましたが、彼女はちゃんと自分の信じる「友達」からのたくさんの優しい言葉たちと彼女を本当に心配する気持ちを素直に受け取って反省し、勇気を持って行動できる強さを持っていて感嘆しました。私自身は傲慢でひねくれた心を大分長いこと引きずってしまいましたが、若い頃にこの作品に出合えていたらもっと違った人生が歩めたのかもと思わず言はいられませんでした。私自身にとっては時すでに遅しですが、今現在悩める少年少女または若い人たちにとってこの作品は優しさと勇気を与えてくれるものなのではないでしょうか。

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書評:住野よる著、『君の膵臓をたべたい』(双葉社)