徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

2018年10月29日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『金田一耕助ファイル11 首』は、表題作『首』(1955)の他『生ける死仮面』、『花園の悪魔』、『蝋美人』の3作が収録されている短編集です。『首』は最後に配置されています。

『生ける死仮面』は、ひどい悪臭によって腐乱死体が発見されることで始まるストーリーで、男色、死体凌辱、デスマスクといった要素を絡めた短編です。一見ただの死体凌辱に過ぎないような事件ですが、別のバラバラ死体が発見されることで、事件が一気に複雑化します。「上野辺りで見つけて来た浮浪児(男娼)」という辺りに昭和20年代の時代が感じられます。

『花園の悪魔』は東京からアクセスしやすいカップル向けの温泉旅館でヌードモデルが殺される事件で、わざわざヌード写真に似せて花畑の中でポーズが取られているのが発見されます。『幽霊男』同様のいかがわしい雰囲気が漂うストーリーです。嫉妬と痴情の縺れの末の事件と言えますが、なんというか、人間の醜い面が露骨に描き出されているようで...

『蝋美人』では、骨を肉付けして生前の容貌を再現する技術がテーマになっています。自殺体と思われていた死体が肉付けされたら殺人を犯して逃走中の女優にそっくりになった、ということで大騒ぎになります。果たしてこの「肉付け」の信憑性は?何か裏があるのかないのか。なかなか興味深いお話しでした。

『首』は、岡山県の奥地を舞台とする横溝作品の一つです。例によって金田一耕助が「休養」のために岡山に来たところ磯川警部に案内された休養地で事件が起こるパターンです。滝の途中に突き出た獄門岩の上に300年前さらし首にされたという歴史的モチーフとそっくりな事件が前年に起こり、また金田一耕助と磯川警部が来てからもそっくりな事件が起こるという3重構造ですが、300年前の事件は見本としての役割しかないので、実際に解明されるべき事件は前年と現在の2件となります。うち1件の犯人は「自白して自殺」のパターン、もう1件の犯人は「人道的良心」から見逃されることになります。まあ仮に起訴されたとしても情状酌量の余地がかなりあり、執行猶予がつきそうな感じですが、そこは探偵の領域じゃありませんからね。


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