徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:辻村深月著、『オーダーメイド殺人クラブ』(集英社文庫)

2018年05月11日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『オーダーメイド殺人クラブ』の語り手は中2女子・小林アン。バスケ部で、クラスの「派手組」の方に属しているけれど、死や猟奇的なものに惹かれることは誰にも言えない秘密。アンは、わがままでクラス内のヒエラルキーの上位に居る芹香と倖とは部活が一緒で仲がいいはずがちょっとしたことで「外され」てしまうという中学生に典型的な不安定な人間関係に悩み、赤毛のアンが好きで「イケてない」母親に苛立ち、何か特別な【事件】を起こすことで特別になりたいと考えます。そして、学校外で遭遇したきっかけとなる些細な事件からクラスメートである徳川勝利に、彼女の希望に沿って殺してくれるように頼み、二人でその計画を練るという物語です。

アンの方の心情はまだ分からないでもないのですが、徳川君の「私を殺して」と言われて「いいよ」と答えるのはちょっと。。。もちろん彼が承諾しなければ話が始まらないのは分かりますけど、「君、かなり変だよ」と突っ込まずにはいられませんね。

アンの思考やクラスや部活などでの出来事の描写は、生き生きと生々しく、そのあまりの臨場感にすっかり埃をかぶって記憶の引き出しの奥深くに忘れ去られていたような中学生時代の感覚が急に取り出されて目の前に突き出されたようで、その埃っぽさに思わずくしゃみをしそうになるような、何とも言えない苦々しい思春期の青臭さのイタさを感じました(笑)

この作品を主人公と同じ中2の時に読んだらどうだったでしょうか。たぶん途中までは「そうそう」とものすごく共感して(猟奇的なものに惹かれるという趣味は別として)、つまんないリストカットなんかじゃなくて、もっと別のことをしようと思ったかもしれませんが、それだけに結末には納得しなかったのではないかと考えられます。小説の中では数ページで3年以上も経過してしまっても、現実の「今」を生きる身にとってはそれは真似できない時間の経過と成長ですので、やはりこの作品はせめて高校生になってから中学時代を思い出として振り返るようになってからじゃないと納得できるお話ではないのではないでしょうか。

現代小説ランキング

にほんブログ村

書評:辻村深月著、『鍵のない夢を見る』(文春文庫)~第147回(2012上半期)直木賞受賞作

書評:辻村深月著、『かがみの孤城』(ポプラ社)~生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊

書評:辻村深月著、『ツナグ』(新潮文庫)~第32回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:辻村深月著、『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)

書評:辻村深月著、『盲目的な恋と友情』(新潮文庫)

書評:辻村深月著、『島はぼくらと』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『太陽の坐る場所』(文春文庫)

書評:辻村深月著、『子どもたちは夜と遊ぶ』上・下(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『スロウハイツの神様』上・下(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『家族シアター』(講談社文庫)

書評:辻村深月(チヨダ・コーキ)著、『V.T.R.』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『凍りのクジラ』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『ぼくのメジャースプーン』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『ロードムービー』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『冷たい校舎の時は止まる』上・下(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『水底フェスタ』(文春文庫)



書評:辻村深月著、『水底フェスタ』(文春文庫)

2018年05月11日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『水底フェスタ』は辻村深月氏の作品にしては後味が悪くて救いがあまりないストーリーです。自然を切り売りし、またロックフェスティバルを誘致して潤う山村の閉塞感をテーマにした物語で、村長の息子で高校生の主人公広海はロックが好きで、フェスティバルの良さを理解しようとしない村民に不満を抱き、ほとんど唯一の理解者である父に対する敬慕、心配症で俗物的な見栄っ張りの母に対する疎ましさなど思春期にありがちな不安定さを持っています。そんな彼の平穏な日常が地元出身のモデル・女優である由貴美によって大きく変化します。8歳年上の彼女の誘惑に溺れ、「村への復讐」に協力することになった彼は取り返しのつかない事件に巻き込まれ、村に古くからある地縁の強烈さと結託した隠ぺい体質を目の当りにすることになります。

この作品に描かれた閉じた村の「常識」の非常識さに驚く一方で、ありそうな感じがして怖いです。そして広海が絶望ゆえにどんな行動を起こし、どこに行きつくのか将来が心配なところで終わるのがこの作品を後味の悪いものにしています。

また、前半の進行がやや退屈で「引き」が弱いので、急展開で話が進んでいく後半に辿り着くまでに少々忍耐力が必要です。そういう意味ではテンポの良くない作品と言えます。

現代小説ランキング

にほんブログ村

 


書評:辻村深月著、『鍵のない夢を見る』(文春文庫)~第147回(2012上半期)直木賞受賞作

書評:辻村深月著、『かがみの孤城』(ポプラ社)~生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊

書評:辻村深月著、『ツナグ』(新潮文庫)~第32回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:辻村深月著、『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)

書評:辻村深月著、『盲目的な恋と友情』(新潮文庫)

書評:辻村深月著、『島はぼくらと』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『太陽の坐る場所』(文春文庫)

書評:辻村深月著、『子どもたちは夜と遊ぶ』上・下(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『スロウハイツの神様』上・下(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『家族シアター』(講談社文庫)

書評:辻村深月(チヨダ・コーキ)著、『V.T.R.』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『凍りのクジラ』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『ぼくのメジャースプーン』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『ロードムービー』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『冷たい校舎の時は止まる』上・下(講談社文庫)