徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:海堂尊著、『ブレイズメス 1990』(講談社文庫)

2018年05月13日 | 書評ー小説:作者カ行

昨日シリーズ最新作の『スリジエセンター 1991』を読んで、前作が気になってしまい、『ブラックペアン 1988』上・下を再読した後、シリーズ第2弾の『ブレイズメス 1990』(2012年発行)も再読してしまいました。タイトルからも分かるように、前作から2年後という設定です。外部研修を終えて東城大に戻された世良雅史は佐伯病院長から与えられたミッションを果たすべく、ニースの国際学会へ行きますが、目当ての天才外科医・天城雪彦が学会講演をドタキャンしたため、彼がいるモナコ公国モンテカルロに向かいます。心臓のバイパス手術の更なる進化型、閉塞した血管自体を切除して代替血管に置換する「ダイレクト・アナストモーシス(直接吻合法)」を確立し、世界でただ一人それを実行できる天城は、モナコのモンテカルロハートセンター部長であるものの、手術はカジノで全財産の半分をかける「シャンス・サンプル(赤か黒の二者択一)」に勝った患者のみに施術するという医師で、医療常識を相当逸脱しています。世良雅史のミッションは天城に佐伯病院長からの手紙を手渡すことでしたが、天城は受け取っても読む義理はないし、いらぬ選択を迫られるのが嫌だから受け取りたくないとだたをこね、一見簡単そうな世良のミッションが急遽難題に代わってしまうというスリルが面白いです。

天城は世良になにがしか感じるものがあったらしく、日本行きに同意し、こうして規格外の天城爆弾が東城大附属病院で炸裂することになります。第2弾は天城が日本初の公開手術を成功させ、将来の日本の医療崩壊から医療を守るための布石として桜宮でスリジエハートセンターを設立する構想をぶち上げるところで「次巻に続く」となっています。もちろん高階講師が完全に敵に回ったことを示す伏線も張られています。

ブラックペアン』はそれ単独でも完結した作品と言えますが、『ブレイズメス 1990』は完結編の『スリジエセンター 1991』とセットです。とはいえ、天城というトンデモ外科医がモナコから佐伯病院長の差し金で桜宮に来たことと、公開手術を成功させたことを了解していれば、細かいことを忘れていても完結編の理解には困りません。

再読して初めて気が付いたのですが、公開手術終了直後の学会会場でかのチーム・バチスタの外科医・桐生恭一が学生として天城に質問しに来て、天城にアメリカ留学を進められた上に、アメリカの心臓疾患専門病院の部長に直接紹介されるエピソードがあります。『チーム・バチスタ』に繋がる因縁がこんなところにちょろっと隠れているとは!

このように作品同士の関連性を見つけるのも海堂作品を読む楽しさの一つですね。


書評:海棠尊著、『新装版 ナイチンゲールの沈黙』(宝島社文庫)

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書評:海堂尊著、『ブラックペアン 1988』上・下(講談社文庫)

書評:海堂尊著、『スリジエセンター1991』(講談社文庫)


書評:海堂尊著、『ブラックペアン 1988』上・下(講談社文庫)

2018年05月13日 | 書評ー小説:作者カ行

昨日シリーズ最新作の『スリジエセンター 1991』を読んで、前作が気になってしまい、『ブラックペアン 1988』上・下を再読してしまいました。2012年に1冊にまとめられた新装版が出ましたが、私が読んだのは上下巻に分かれていた2009年発行の初版本です。12月半ば発行でしたので、私が読んだのはおそらく2010年が明けてからで、約8年半前のことなので内容をほとんど覚えてませんでした。覚えていたのはブラックペアンが何に使われたか、くらいです(笑)

上・下巻に分かれてますが、分ける意味があったのか疑問に思うほど薄っぺらで、各200ページ余りです。

さてストーリーですが、タイトルにもあるように時は1988年のバブル真っ盛りのころ。「神の手」を持つ佐伯教授が君臨する東城大学総合外科学教室に、帝華大の「ビッグマウス」あるいは「阿修羅」と呼ばれる高階講師が食道癌手術を簡易化するという新兵器「スナイプAZ1988」を手土産に乗り込んできます。佐伯教授は「ビッグマウス」の「小天狗」のとけなしつつも、やりたいようにやらせますが、医局の万年平局員にして高い手術手技を持つ渡海が高階に噛みつきます。

下巻ではスナイプを使ったオペが目覚ましい戦績をあげたので、高階が最初に切った啖呵の是非を問うために、スナイプオペを若手外科医だけにやらせるように命じ、高階講師には立会も許さない。また、渡海はどうやら佐伯教授と因縁があるらく、復讐の機会をうかがっています。さて、何が起こるのか?

と、緊迫感のある話運びですが、語りの視点は医局1年目の新米外科医・世良雅史なので、新人の悲哀なども語られ、ハイレベルバトルのとっつきにくさを緩和しています。全体的に鋭い筆致で、再読でも十分面白かったです。まあ、話の大半を忘れていた、というのもありますが。

それにしても、佐伯教授とやらは王様ですね。立場が下とは言え成人の講師や医局員に向かって「ビッグマウス」、「小天狗」、「小坊主」とか呼びかけ、名前を呼ばないことが、ムッとはしても受け入れられているところが時代の違いを感じます。


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書評:海堂尊著、『スリジエセンター1991』(講談社文庫)

2018年05月13日 | 書評ー小説:作者カ行

『スリジエセンター1991』は、桜宮・東城大サーガの過去編である『ブラックペアン』シリーズの完結編です。ようやく文庫化されたので早速購入して、届いたとたんに読破しました。

東城大附属病院に招聘されたモンテカルロの「エトワール」の称号を持つ天才外科医・天城雪彦が唯一の部下・世良雅志とスリジエ・ハートセンターの設立を目指す物語です。『チーム・バチスタの栄光』を始めとする田口・白鳥シリーズで丸投げの得意な病院長として田口をこき使う高階権太のこの時の肩書は「講師」。田口の担当する不定愁訴外来を支え、隠然と政治力を発揮する藤原さんのこの時の肩書は「婦長」。この二人がタッグを組んで病院長・佐伯教授を追い落とし、スリジエセンター設立の阻止を画策します。現代編の方を読み込んでいると、この作品の中でいろいろと納得することがあります。まあ、そのための過去編なのでしょうけど。高階がどのように「丸投げ」という技を体得したのかも語られていて、ちょっと吹き出したり、他にもボケとツッコミが絶妙な会話で笑えるところがありますが、天城雪彦の運命に限ってはかなり悲劇的と言えます。日本の医療を変えるという夢は革命児・天城の手によっては実現が叶いませんでした。

『イノセントゲリラの祝祭』や『ナニワ・モンスター』、『スカラムーシュ・ムーン』で活躍する未来の革命児・彦根新吾は、ここでは厚生省志望の医学生として登場するのですが、天城にも高階の策略で厚生省から天城に圧力をかけに来た坂田にも「医師として経験を積んでから厚生省に行け。そうすれば厚生省に耐えられなくなってとび出しても医師として生きていく技術を持つことができる」というようなアドバイスを受けるところも面白いと思いました。

院内政治、権力闘争、医療崩壊の予兆とそれに対する策としての病院改革。問題が山積していて、一体どこに辿り着くのかハラハラしてページを繰る手が止まらなくなりました。453ページと比較的ボリュームがありますが、問題なく一気読みできました。

また、先行する物語『ブラックペアン1988』や『ブレイズメス1990』の内容をほとんど覚えてなくても特に違和感なく読めました。


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