![]() |
お菓子とビール (岩波文庫) 価格:¥ 819(税込) 発売日:2011-07-16 |
モームはずいぶん前に「劇場」を初めて読んで、あまりの痛快さに爆笑、読後その足でアネット・ベニング主演の映画のほうも借りて観た。なまなましい人間性をストーリィに活かす巧みさではピカイチの大作家が、自作で一番好きと名言している本作。その理由のひとつはきっと唯一愛した異性の女優がモデルだから。原題の<Cakes and Ale>は、人生に愉しみを与えるものという意味。
作家が作家を書く含蓄の深さ鋭さもさることながら、私が好きなのは、男女の恋愛観の違い(が逆転しているところ)。1930年の作品だから衝撃的なくらいだったのではないかしら。
地球上に何十億人いる異性のうち、知り合いになる可能性のある何百人かの間で、好きになりそうな何人か(人によっては何十人か?)の恋愛対象、そのなかのたったひとりが、人生で愛すると決めた人。普通、女性は、自分だけを特別と見る人を選ぶ(間違いない)。男性は会っているときの楽しさを求める(言い切るようだがこれも間違いない)。その違いがかろやかに逆転していて、ロウジーと名づけられたヒロインの自他ともに対する“Cakes and Ale”っぷりが素晴らしい。やっぱりこの人はすごい巨匠だと思う。