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青年 (新潮文庫) 価格:¥ 460(税込) 発売日:1948-12 |
頼まれる仕事を断らないどころか、これは成功させなきゃ、という重要な案件はむしろ何をおいても引き受けてしまう損な?性格ゆえ、急いで〇分後までに〇〇をやらなければならない、失敗できない、人が失敗したらリカバリしなくてはいけない、という日々が続いて半年、さすがにすっかりエネルギーを消耗してしまったよう。
小さい子供のころは体が弱くて、風邪をひくと、なかなか熱が下がらずに1週間、学校を休むのが常だった。熱が高く関節の痛みや頭痛を我慢して和室の布団に寝ていると、天井の木目が虹色になって踊り出し、大きくなったり小さくなったり、万華鏡みたいできれいだなあとぼんやり見ていたことを思い出す。
熱が引くのはだいたい5~6日目、やわらかめに炊いてもらったご飯を食べられるようになって、布団の上での時間を限った読書を許されると、いつも森鴎外の「青年」と「雁」の入った一冊を読みたくなった。「雁」なんて明治時代の高利貸の外妾さんの話だけれど、冬の乾いてピーンと冴えた空気のような、でもころあいのよい知的な雰囲気が、やっと回復しつつある爽快な気持ちとぴったり合っていたのだと思う。
そのころは難しかったが、「青年」は今読んでみるととても素敵。高橋義孝氏の昭和43年に評した解説「現代作家とは決して比較できないほどの学殖の持ち主が、豊富で正確な語彙と綿密な計算を積み重ねて綴った文章」がほんとにそう。