WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『成瀬は信じた道をいく』(著者:宮島 未奈)

2024-05-12 16:46:55 | 本と雑誌

表紙からして、いい。強いまなざしでまっすぐに前を見ているあかりちゃん。周囲が大絶賛しているので、落としておいた一作目の「成瀬は天下を取りにいく」を読もうと、いそいそとKindleを取り出して電源スイッチを押したとたんに画面がほわーんと白くなって充電切れの表示が。

日曜、芝桜で有名な羊山公園と、イチローズモルトの飲み比べができるアイリッシュパブに行くため、秩父行きの電車に乗り込んだばかり。地下鉄とJRを乗り継いでこれから2時間の道中、みっちり読書できると楽しみにしていたのに! 着くまで一体、何をしていればいいんだ。私の頭も一瞬真っ白になったが、電車ですることがないと窮状を送ったLINEに、モバイルバッテリーでタイプcもいけるよと冷静な返信。え、そうなんだ。

チャージスポットって今や、本当にどこにでもあるんですね。特急に乗り換える間の数分で、駅で充電器をレンタルできて、愛機が無事に復活した時の嬉しかったこと。風薫る秩父の景色が窓からいっそう輝いてみえる。で、この本は二作目もとにかく面白すぎました。無敵のヒロイン(大津在住)が最高。構成も良くて、一話ごとに話者が変わって飽きさせず、さまざまな角度から笑いが止まらない・・・。これはぜひアマプラでアニメ化して頂きたい。


『DIE WITH ZERO』(著者:ビル・パーキンス 訳:児島 修)

2024-01-03 16:14:44 | 本と雑誌

年末年始を札幌で過ごす家族に、飛行機満席になるから早く予約したほうがいいよと言われたが、私は今年はひとりで過ごすことを選択。2023年はとにかく仕事が忙しく、泊りの出張もやたら多く、静かに心身を休めたかった。シャンパンも飲まずおせちも食べない元旦は久しぶり(というか人生初な気がする)。

仕事納めの夜、親しい友人と居酒屋で飲んでいて、気がゆるんだのか談笑の最中に急に寝落ちしそうになって、帰宅後お風呂のバスタブでぐっすり撃沈(あぶない笑) その日からいくら寝てもまだ眠れる。疲れていたんだなぁ。恒例の大掃除をし毎日かなりの距離を走って、日をおうごとに食欲も回復して、マイペースの穏やかな冬休み。そして貪るように大量の本を読んだ。

ベストセラーのこの一冊。老後のための貯金をしすぎるな、それより今の貴重な時間のために支出せよ、なぜなら、

①スポーツでも旅行でもアート鑑賞でもなんでも、体力やメンタルの稼働が落ちるぶん、そこから楽しみを引き出せる率は加齢とともに下がる ②高齢になると、いまの自分が思っているほどお金を使わなくなる(出かけるのがおっくうになるし、食だって細くなるし) ③いま味わった体験の喜びは、年をおうごとに記憶の付加価値として逓増するから(利子のように) もともと貯蓄志向の高い日本人、「な、なるほど!」と膝をはたいてしまう理由そのほか多数。おもしろかった。

ところで私の自宅のあるエリアの駅前はやたらカフェ店舗数が多いせいか、3階ぶんの広いスタバはたいてい、ここがスタバとは思えないほど空いている。年末、客がなんと私しかいないフロアでひろびろと読書していたら、突然この世のものとは思えない美しく崇高なピアノの曲が聴こえてきて息をのんだ。雷にうたれたようなとはまさにこのこと。あわてて検索してみると、ビル・エヴァンスの「Peace Piece」。ここ数日、繰り返し聴いて、聴くたびに鳥肌がたって涙ぐんでしまう。まだ美しいものに感動できる年齢のうちに、たくさん経験を重ねておきたい。良いリフレッシュ休暇になって、明日からまた仕事再開。


『モモ』(著者:ミヒャエル・エンデ 訳:大島 かおり)

2023-05-28 15:24:01 | 本と雑誌

連休があけたら年内はノンストップで忙しくなると覚悟していたけれど、この2~3週間で早くも息切れ。30分刻みで朝から晩まで続くオンラインミーティングのあいまに、ひっきりなしに回ってくる確認やら相談やら承認をかたしていかねばならない。さらに出張がたてこんで、先週は羽田始発便で福岡に行き、最終便で戻ってきた。帰る前に福岡空港でせめてワインとパスタでもと思ったところ、その時間はゲート内のお店が全て閉まっていて(まじか涙)、ショップでかろうじて一つだけ残っていたカツサンドを機内に持ち込む。ううぅ、野菜の要素が乾燥したパセリしかなくて、悲しい。。

羽田に戻る深夜の機内で読んだのはエンデの「モモ」。このすてきに美しい物語を、意外にも今まで読んだことがなかった。人間の時間を盗む灰色の男たちって、何の比喩なんだろう。指数関数的に増えていく情報?物質的豊かさを充足する思想?限られた時間にびっしりとタスクを効率的に詰め込むことで、さらにせわしなく、ピリピリと、時間と気持ちの余裕をなくしていく都市の大人たち。将来ためになることしかできずに、自分で自由に考える楽しさを奪われていく子どもたち。まさに50年後の今を描いているような70年代の世界的名作。

読み終わり、ふと自分の忙しすぎる日々の反省をし、この週末は仕事のことを全く考えないと決めた。朝遅くまでたっぷり眠って、掃除と洗濯を片付け、5月最後のさわやかな風が吹くベランダで日光を浴びながら缶ビール。鶏肉のワイン煮込みを弱火にかけている間に、フランス語でアルセーヌ・ルパンを読む(ルパン、超かっこいい)。さて来週は早くも梅雨入りか。疲労で倒れないようになんとか乗り切りたい。


『F ショパンとリスト』(著者:高野 麻衣)

2023-05-04 15:06:24 | 本と雑誌

よく晴れた日の続くゴールデンウィーク。今年は旅行に出かける人が多いのか、自宅近くの駅周辺やお店も意外に静か。長時間ぐっすり寝て、いきつけの喫茶店でアップルパイと芳醇なコーヒーをご馳走になり、帰り道にスーパーマーケットで山のような買い物をし、空っぽだった冷蔵庫に食材をおさめる。この連休は心身をゆるめて、ふだん時間がなさすぎて出来ないこまごましたことを片付ける。iPhoneを新しくしたあと、なぜか接続できなかったイヤフォンやスピーカーをつなぎなおす。肩こりを少しでも解消しようとPCのキーボードをソフトタッチのものに交換。デバイス苦手な私だってやればできるじゃん!と余勢をかり、仕事で使っているMacのOS入れ替えまで完了。地味に幸せである。

幸せといえばこの前に行ってきた金沢が実に素晴らしかった。中でも圧巻は石川県立図書館。エントランスから中に入るとひろびろした吹き抜けのホールが広がり、視界一杯に書棚、全方位に本、本、本。もう最高、本好きの神殿かここは。くらくらきた。ちょうど東欧オーケストラ企画展の開催中で、展示ケースの中には、なな、なんとフランツ・リストの手書き譜面が。五線譜いっぱいに力強い点と線がびっしり書き込まれている。200年近い時間を経た直筆、すごすぎる。

興奮しばらくさめやらず、そういえばリストが出てくる小説を前に落としていたな、とKindleを検索。(未読があまりにたまりすぎて、検索しないと出てこない笑) あ、これだ。さっそく帰りの新幹線で読書。へぇショパンの作る曲を弾いていたのか、ふたりで一台のピアノを弾くこともあったのか、この時代のアーティストは政治と密接な関係があったのね・・・軽やかな文体が読みやすい。最後のページまで来て、なんとリスト様の書いたショパンの本があるのか!しかも新訳のKindle版も出ている。早速ダウンロードしました。未読がいっこうに減らない、便利だけど。


『祝祭と予感』(著者:恩田 陸)

2022-08-21 14:03:36 | 本と雑誌

7月の晴れた日曜、2年ぶりに開催された浅草フィル定演でシベリウスを聴いた。(浅草の天ぷら老舗「中清」でランチをいただき、おなかいっぱいになった直後だったのでついウトウトしたが、フィンランディアが特に良かった) その前にコンサートホールに行ったのが昨年6月でブラームスのチェロ。コロナ下での自粛もあり、それまで日常の中に組み込まれていたオーケストラをライブで聴くという習慣がすっかりなくなってしまった。

もちろん、こよなく愛するピアノは自分で弾く。レッスンに通うことは今は止めていて、自宅でプロの曲をじっと耳をすまして聴き、タッチや表現を考えながら少しずつ練習する。この本に出てくるディヌ・リパッティのピアノ協奏曲(シューマン)。もちろんまだ弾けないけれど、カラヤン指揮のオーケストラとの協奏がとにかく完璧に美しい。

ブログのどこかにも書いていると思うのだが、「蜜蜂と遠雷」を読んだときの衝撃はすごかった。たしか年初のうちに読んだところ、この年の最高傑作にめぐり逢ってしまった!と大興奮した記憶がある。映画も見た。コンテストの課題曲として出てくるピアノ作品を聴きまくった。そろそろ続編、でないかな・・と期待するファンのための、6つの小品とさまざまなエッセイを収めたこの本は、贅沢でお洒落なアンコールという感じ。

膨大な作品群から譜面を見て選定し、その曲を違うピアニストで何度も何度も繰り返し聴いてから、ひとつのシーンをコツコツ書くという気の遠くなるような作業。取材のため、浜松国際ピアノコンクールに4回も通ったという半端ないピアノ愛(このコンクール、3年に1回なのだ)などなど、「蜜蜂と遠雷」創作の舞台裏も楽しめる。続編は書かない(もう語るべきことは全て書ききった)という著者のひとことが潔くてカッコいい。でも魅力的なコンテスタントたちのプロとしての演奏家人生も、ものすごーく読みたくなる。やっぱり続編、でないかな・・・