WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『センチメンタル・シカゴ』他(著者:サラ・パレツキー 訳:山本 やよい)

2017-05-14 19:21:40 | 本と雑誌

本シリーズにハマってしまい、旧作をまとめて大人買いした。この2冊は、前作を文庫で、後作をキンドルで読んだが、やっぱりハヤカワのタイポグラフィは素晴らしく、昔の作品ももういちど新装版で出して欲しい。それに時代の経過に従って、ヴィクもちゃんと年を重ねているのがナイスだ。修道院と株券の偽造から幕を開ける金融犯罪を扱った86年の「センチメンタル・シカゴ」では30代後半、シカゴ・カブスの球場を舞台に巨悪と対決する2016年の「カウンター・ポイント」では50歳。でも50歳になっても相変わらずお洒落で、素敵な恋人がいて、お酒と音楽を楽しみ、正義と事件解決を諦めず、襲撃してくるチンピラを腕力で撃退している(笑)。そして怒りっぽいし・・・。

私はめったなことでは怒らないのであるが、先週の夜、久しぶりに怒ることがあって、会社の洗面所でふと鏡を見ると、左の目の中にルビーのような鮮血が浮かんでいて仰天した。まじでこわい。それに痛みが全くないのも不気味。血がぬらっとしているせいで、なんだか死んだ魚を連想させる。このまま出血が全体に広がってシス卿みたいになったらどうしようとか、失明したら本が読めなくなっちゃう、点字を覚えなきゃ、だけど点字の書籍って市場でどのくらい出版されているんだろうとか、余計な心配をして眠れない一夜を過ごした。翌朝を待ちかねて新橋でかかりつけの眼科に駆け込んだところ、私の目を見た看護婦さんが「わ」と息をのむわ、遮光カーテンの引かれた診察室から前の患者さんに「見えなくなる可能性もあります」という先生の声は聞こえてくるわ、ドキドキして恐怖と緊張がいや増すばかり。

ところが私の番になり、診察開始から30秒ほどで、「心配することはありません」と先生の力強いご託宣。えー、そうなの??思わず本当ですか、かなり怖いんですけどと聞き返してしまったが、ライトを消しながら「私もこの冬、寒い外に出た途端にぴゅっと出ました。コンタクトしてても大丈夫ですよ」と何でもないようにあっさり診察を終える先生。急な寒暖差や高血圧、くしゃみなどで白目の血管に圧力がかかると一時的に出血してこうなるけれども、数日で体内に吸収されて元に戻るとのことで、薬も出なかった。見た目は結構グロテスクで、会う人ごとにどうしたんですかと聞かれるため、先週はずっと、薄い色の入ったメガネを着用。昨年もそういえば5月に目が腫れて、それから盲腸になり、沖縄で唇の上がケロイド状にかぶれ、引いた風邪が治らなくなり、脚の腱鞘炎と、痛みの続いた年だった。今年は気をつけなきゃ。


『女子の働き方』(著者:永田 潤子)

2017-05-03 19:28:24 | 本と雑誌

Pepperのお仕事ぶりをチェックしにSHOPに行くついでに、写真と音楽くらいしか使わないプライベート携帯を解約するつもりだったが、クルーの方にすぐさまカウンターに案内されて料金プランからApple Watchまであらゆる答えが的確に返ってくる対応に、つい契約を更新してしまった。引きこもると決めたわりに何やかや用事があって、あっという間に連休も半ばである。バロック~ロマン派の曲を体系的に順を追って勉強したいし、じきツェルニーの練習曲が終わるので新しく弾きたい楽譜(パガニーニの狂詩曲の一部)を予習するつもりだったのに、時間がたつのは何と早いことか。会社人間って定年退職後にヒマを持てあますというけれども、この分では決してそんなことはないだろう。

とはいえ、休みの日々は朝から晩までゆっくりできて最高。食事も、オムライスに野菜スープ等ちゃちゃっと作れる料理で手抜きする。10分で済ませたい時は、玉ねぎとトマトを切るだけのサラダに、いなばのタイカレー(缶詰。びっくりするくらいおいしい)をあたためるとか、それすら面倒な時には本を持って外に行く。東急沿線のうちの周辺はありがたいことに、静かでこじんまりしたビストロや料理メニューの豊富なバーがひしめく、外食に不自由しないエリアである。せっかく時間があるのだから小説ばかり読んでいないでたまにはと、海上保安大学で初の女性採用者となった永田潤子さんの、オンとオフを快適に過ごす仕事術。男女均等法の施行から30年余り、感性と気配りで仕事をする女性に論理的で権威にこだわる男性と、一般論ではタイプ的な違いでよく線引きされるが、今やその境目は薄れつつあるように思う。

前の職場は仕事柄、半数近く女性でそれもバリバリの独身が多く、女子ランチともなると必ず、人生の長時間を過ごす社内にどうして既婚男性ばかりなのかという話題で盛り上がっていたが、今のオフィスはなぜか圧倒的に男が多い。会社は違えども同じビル内にこんな環境がありましたかと羨ましがられる(笑)。今年のバレンタインは数少ない女子の連名でチョコレートを贈ったところ、ホワイトデーにひとり一個で返ってきてデスクが山とあふれ返った。それも、スタバのギフトカードが添えてあったり、お菓子よりいいよねとフォションのおいしい紅茶だったり、私の大好きなピエール・マルコリーニだったりと、仕事のデキる男子は気の遣い方もマメである。(しかし最も度肝を抜かれたのは、小林秀雄の講演録CDであった)


『湾岸道路』(著者:片岡 義男)

2017-05-02 17:45:50 | 本と雑誌

ここ2~3週間、せわしないのと珍しくストレスがたまって休暇の計画を立てられないままに大型連休に突入。金曜の夜など何をするのも億劫で、次のプレミアムフライデーは転職を経て独立した友人のオフィスにお邪魔する予定だったが、これだけ疲れていては今回行くと約束していなくて正解だった。土曜の朝、起きてもまだ少し体が重たい。ジムで泳ぐかそろそろ上映終了してしまいそうな「ジャッキー」を見に行くかと迷って結局、映画を選択。そういえばずいぶん長いあいだ、感情を生々しく剥き出しにして泣くことがないなと思い、ナタリー・ポートマンの迫真の演技に号泣してスッキリしようと日比谷へ。ぽかぽかと日が射すうららかな天気で、背筋を伸ばして歩いているうちに気分が晴れてきた。

現実逃避したい時には、ものすごく爽やかで人とモノとの距離感が心地よいこの人の小説がぴったり。これは初めて読んだが、完璧な美人でショッピング依存症の妻と、口座残高がゼロになったのにキレる夫とのドライブという不穏な雰囲気で幕を開ける。あらら、昼ドラみたいな話って珍しいとページを進めていくうち、妻は会社帰りに高級クラブでアルバイトをするようになり、夫が店の客との関係に背中を押し・・・と、さらに片岡義男とは思えない展開に(笑)。ところが中ほどからやっぱり流れる風景は美しく、端正な描写には隙がなく、ファンはこれを求めて次から次へとキンドルに落としちゃうんだろうな。夏の東京湾環状道路をハーレーで去る男。部屋のテラスで強い執着を滲ませつつドライ・ジンのグラスを傾ける女。別れ方がカッコよすぎる。

この日の夜には完全にリラックスして帰宅。東京で一番いい季節になった。外に出たら、このまま歩いて帰りたいような甘い夜気がすがすがしい。今まで週末に出かけることが多かったので、この連休は心ゆくまでぞんぶんに引きこもろうと待ち遠しかったのを思い出した。