WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『プライベート・バンカー』(著者:清武 英利)

2016-08-20 16:32:52 | 本と雑誌

数年前、休暇でシンガポールに遊びに行ったとき、私はこの国をすっかり気に入ってしまった。快適なホテル、いろんな食材にスパイスが効いて美味しい料理、熱帯特有の熱くて濃いねっとりした空気、街路も設備も清潔で過ごしやすい。国土がコンパクトだから、観光にショッピング、レストラン、どこに行くにも便利。

でも、散歩がてらに街を歩いてごはんを食べに行く途中、其処此処に警察官が立っているのを見て、ちょっと背筋がヒヤッとしたのを覚えている。目つきが非常に鋭くて怖いのである。他にも、ふと違和感を覚える不自然さというか人工的な感じ。駐車スペースにベンツとポルシェがずらりと並び、聞けば5万ドル以下の車のオーナーはお断りというホテル。熱帯なのに虫や鳥がいない。滞在中はとても快適に過ごせるのだけれど・・・

この本を読んで、当時感じた違和感の理由に納得がいった。ジャイアンツの元球団代表、清武氏の放つ、富裕層優遇のオフショア国家シンガポールを舞台にしたノンフィクション。小説かと思いきや、取材ネタを元にした実話で超大型投資家が実名でバンバン出てくる。相続税を回避するためだけに、晩年の貴重な5年間を家族と離れて一人ぼっちで暮らす老人や、節税対策で永住したもののやることもなく無為な日々を過ごす元ベンチャー経営者…孤独と退屈は人生の幸せとは対極にあり、私だったらきっと無理!と思うのは異世界に手が届かない一般庶民のひがみかしら?


『野蛮な読書』(著者:平松 洋子)

2016-08-14 16:22:31 | 本と雑誌

ふだんの週末は、たまったお洗濯に掃除に料理、ジョギングやゴルフの練習に出かけたり友人と食事したりで、朝から晩まで大好きな仕事にかまけている平日よりも意外にせわしない。4連休は+アルファのたっぷりした時間があって、自宅でワインを飲みながら最近ハマっているオペラを聴き、心ゆくまでピアノを弾いて優雅な休日を満喫。

この前ピアノのレッスンで、先生がとっても嬉しい一言をおっしゃった。「木戸さん、手が大きくなりましたね」 ピアノをはじめたとき、手の小さい私の指は、必死に伸ばしてもドからソかラまで届くのがやっと。そもそも体が硬くて関節を使うこと、前屈とか笑っちゃうくらい苦手なのだ。しかしこれでは、左右で3つ以上の和音を弾きこなすのも出来ない。ベートーヴェンの「月光」でソドミからはじまる最初の小節でもう指がつりそうになった私に、先生も苦笑しながらお風呂でやるといいわよ、と両手を使って指の間をのばすストレッチを教えてくださったのを覚えている。

それからさすがに10年近くも続けていると、やわらかくなった指はドからドまでらくらくと白鍵8つ分が届く。のばした先でいちばん弱い小指すら力強く鍵盤を叩けるように。ああ、人間の体って繰り返すことで進化するものなのね。これってフィジカルな関節だけでなく、メンタルな情緒も同じと思う。平松洋子さんの読書エッセイは長年繰り返し、自分の琴線に触れる大好きな本を何度もじっくり読み込んできた結果、103冊の真髄にとろりと深い世界が展開する。大スター池部良のエッセイ、沢村貞子の料理日記、古屋誠一の写真集、獅子文六に森茉莉、室生犀星、山田太一・・・私も読書好きだがまだ知らない本がいっぱい。野蛮といいながら、1冊1冊の書評がこまやかに愛情あふれる洞察に満ちて、すぐにも読みたくなる。


『女たちの家(上)(下)』(著者:平岩 弓枝)

2016-08-12 21:55:43 | 本と雑誌

今年は梅雨明けが遅かったものの、先週、今週とようやく気温がぐっと上がり、強烈にまぶしい陽射しが夏らしい。私の家は東向きのため、寝室の窓に遮光カーテンをおろしていても、6時をすぎると隙間から強い朝の光がさしこんで、目覚めてしまう。眠りから意識が戻ってくると、一日の始まりにワクワクする。現代日本、誰のどんな職業だってラクなものはないし、私の仕事も相当大変でハードだけれど、過去のキャリアの中で今が一番楽しい。

女性が第二の人生を一生懸命に生きる小説では、量でも質でも、平岩弓枝さんの右に出る作家はいない。昭和54年に書かれたこの本は、紆余曲折を乗り越えて、周囲の協力にも恵まれ、ペンション経営を成功させる未亡人が主人公。作風はみずみずしいのに、なんだかほうじ茶と羊羹みたいな、全体的にしみじみした落ち着きがあって、私この人の書く話が大好きなんだよなあ。むかし読んだのをまた読みたくなって上下一気に読んだ。

ところで平日のこんな早い時間に読書日記を書いているのは、今日お休みして4連休を楽しんでいるから。昨日は家族と食事に行って、キリッと冷えたおいしい白ワインを2本あけ、今日は「X-MEN」の最新作を見に渋谷へ。ストレスがないからか、コンディションは最高。去年の同じ時期、金曜をオフにして映画に行ったときは、タイミングが悪く電話とメールがひっきりなしにかかってきて見た気がしなかったけれど、今日は2時間どっぷり、3Dで前作をしのぐミュータントの世界を堪能。