数年前、休暇でシンガポールに遊びに行ったとき、私はこの国をすっかり気に入ってしまった。快適なホテル、いろんな食材にスパイスが効いて美味しい料理、熱帯特有の熱くて濃いねっとりした空気、街路も設備も清潔で過ごしやすい。国土がコンパクトだから、観光にショッピング、レストラン、どこに行くにも便利。
でも、散歩がてらに街を歩いてごはんを食べに行く途中、其処此処に警察官が立っているのを見て、ちょっと背筋がヒヤッとしたのを覚えている。目つきが非常に鋭くて怖いのである。他にも、ふと違和感を覚える不自然さというか人工的な感じ。駐車スペースにベンツとポルシェがずらりと並び、聞けば5万ドル以下の車のオーナーはお断りというホテル。熱帯なのに虫や鳥がいない。滞在中はとても快適に過ごせるのだけれど・・・
この本を読んで、当時感じた違和感の理由に納得がいった。ジャイアンツの元球団代表、清武氏の放つ、富裕層優遇のオフショア国家シンガポールを舞台にしたノンフィクション。小説かと思いきや、取材ネタを元にした実話で超大型投資家が実名でバンバン出てくる。相続税を回避するためだけに、晩年の貴重な5年間を家族と離れて一人ぼっちで暮らす老人や、節税対策で永住したもののやることもなく無為な日々を過ごす元ベンチャー経営者…孤独と退屈は人生の幸せとは対極にあり、私だったらきっと無理!と思うのは異世界に手が届かない一般庶民のひがみかしら?