WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『アンナ・カレーニナ(2)』(著者:トルストイ 訳:望月 哲男)

2011-04-24 17:33:39 | 本と雑誌
アンナ・カレーニナ〈2〉 (光文社古典新訳文庫) アンナ・カレーニナ〈2〉 (光文社古典新訳文庫)
価格:¥ 900(税込)
発売日:2008-07-10

今日ものどの痛みおさまらず、ものを飲むと腫れているところにあたって痛い。暖かくて気持ちよい春の日にもかかわらずジョギングはお休み。最低限の家事、朝食をつくってざっと家の掃除とお洗濯をしただけで、かなり体力を消耗してぐったりと横になる。健康が最もありがたいとこんなときはしみじみ思う。


第一巻がイントロダクションだとすると次のこの巻は壮大な展開部、中でも3つのパートが素晴らしい。主人公の一人である地主貴族が「人はどうせ死ぬのだからどんな思想も仕事も意味がない」と厭世観にとらわれるところ、若い恋人ふたりが書いた長い文章の頭文字だけでお互いの考えを読み取るところ、そしてアンナが出産に際して死にかける場面。孤独なモノローグと甘くて優雅な旋律とクライマックスに向けて高まる狂ったようなコーダ。


新訳で読みやすいせいかけっこう厚みがあるのにすらすらいける。しかし1冊終わるとなぜか必ず日本文学(それも夏目漱石)を読みたくなる。それで午後読書しているうちにじょじょに痛みと体のだるさが治まってきた。夕方はふつう熱があがってくるので、これは良い兆候。またぶり返さないといいのだけれど。


『第一阿房列車』(著者:内田 百聞)

2011-04-23 18:15:10 | 本と雑誌
第一阿房列車 (新潮文庫) 第一阿房列車 (新潮文庫)
価格:¥ 500(税込)
発売日:2003-04

朝、のどの腫れがひどくお医者さんで薬をもらって、今日は一日寝たり起きたり。社会人になってから、それまで弱かった体がだんだんタフになり、風邪で熱があっても仕事に影響させない強靭さがついてきたけれど、こういう時に無理して日常諸事をしていると治りが遅くなる。(一昨年の夏、インフルエンザをこじらせて大変なことになっておぼえた)それで今日も、眠くなれば眠り、空腹を感じればたくさん食べるようにして、とにかく体が要求することに従う。


新幹線が好きで、それも1人で東京-新大阪間くらいの距離をのるのがいい。紙コップ入りの熱いコーヒーを買って、窓の外をビュンビュン過ぎてゆく風景を眺め、本に没頭したり、軽い音楽を聴きながらウトウトしたり。行きは旅への期待感、帰りは帰宅の嬉しさと一抹の寂しさがまじった気持ちも何ともいえない。とくに20代はじめのころは乗る機会が多く、往復とも陽だまりの猫みたいに満ち足りた気持ちで1人でいても飽きなかった。


この本、「断じて目的のない旅」を掲げ借金までしてさまざまな土地へ出かけていく「阿房列車」は、内田百聞の電車好き、お酒好き、頑固な美的ポリシーが満載で、ぶらり新幹線にのる楽しさを思い出した。昨年は奈良に行ったので乗ったが、今年は長崎に行きたいので残念ながら飛行機か。とにかく今はこの風邪を治さねば。


『鏡をみてはいけません』(著者:田辺 聖子)

2011-04-16 20:07:57 | 本と雑誌
鏡をみてはいけません (集英社文庫) 鏡をみてはいけません (集英社文庫)
価格:¥ 560(税込)
発売日:1999-09-17

前にテレビで、全国の家庭でいかに料理をしないかという特集をしていて、その中でおおっと思ったのが、1週間のうち5日が鍋料理という話。切って入れるだけなので面倒ではないということか(それに鍋をいちいち洗わない?)・・・あとお味噌汁を作らないというのも多く、たしかに毎日3食作るのは大変だと思うけれど、少なくとも子どもにとってはどうなんだろう。


うちの親の教育方針は、「ごはんとおやつをしっかり作る」「勉強は、学校とその予習復習だけで十分」「プレゼントを厳選する」で、今から思えばすごく健全に育ててもらったと思う。だって小さな子が、スーパーのお惣菜で一人だけの夕食をすませて塾に行くなんて、不健全だし、物悲しい。私は朝食も夕食も家でしっかり食べてたし、塾に行かなくても大丈夫だったし。昭和世代には当たり前だったのに、今ではそういう家庭は少ないのかも。


この本はそれがテーマで、主人公がすごくいい。服やメイクに気をつかうより、おいしい昆布炊きをコトコト煮るのに長時間かける。気分がのるとファンタスティックな絵本を描き進める。ピュアだから、一緒に暮らす子持ちの男性の過去の恋愛に翻弄?される。何より、日々の食事の支度をとても楽しんでいるのが素敵。こんなタイプの日本女性がいちばん美しい。


『街場の現代思想』(著者:内田 樹)

2011-04-03 17:11:11 | 本と雑誌
街場の現代思想 (文春文庫) 街場の現代思想 (文春文庫)
価格:¥ 600(税込)
発売日:2008-04-10

冬は、コットンの毛布にフランスダックのしっかりしたふとんにくるまって寝る。一昨日と昨日は、それが暑かったのか、夜びっしょり汗をかいて何度も起きた。汗を吸った衣服が冷えて肌にじんわり貼りつくのが大嫌い、なのでそのたびに着替えること4回。小刻みに起きるのであまり寝た気がしない。この時期は三寒四温で、今日はまた寒くなっちゃったなと思うけれど、次に暖かくなるときは確実に前よりも気温があがる。こういう季節の変わり目はほんとに日本らしくて素敵。


「街場」シリーズの一巻目、うまいし、鋭いし、読んでいるのは通勤電車の中なのに、おもしろくてつい、うふふと笑ってしまう。たとえば、論理的規範とは、「社会のまわりの人間が自分みたいになっても生きていける人間になること」なんて、おそろしく鋭い喝破だ。そうか、数年前の私、理屈が通っていないことは問い詰めるタイプだったけど、論理的規範からはずれていたんだ(笑)


司馬遼太郎先生の「竜馬がゆく」に、坂本竜馬は人と決して論争をしなかったというエピソードがあって、人が理由を問うたときに、勝っても負けても恨みだけが残るからと答えたという。今では、竜馬の頭の良さがおおーと体で分かる。ものごとにはなんにでも理由や事情があって、良し悪しで単純に割り切れるものではないし、人を理詰めで責めてもけっしてポジティブな解決にはならない。もっと緩やかな時代の私たちは、どうしても許せないことがあれば、だまって離れていけばいい。大人なんだから。


『硝子戸の中』(著者:夏目 漱石)

2011-04-02 15:06:47 | 本と雑誌
硝子戸の中 (新潮文庫) 硝子戸の中 (新潮文庫)
価格:¥ 300(税込)
発売日:1952-07

大晦日の次に、あぁ1年が終わったなと思う年度末。いつものように慌しく一日を過ごしてしまって、区切りのために夜にお酒でも飲もうと思ったのに、疲れてそのまま帰宅。仕事で、神経がたぶん張っているのだろう、この日はうまくオフの切り替えができずなかなか寝つけない。(ふだんは、オーダー枕のおかげもあってストンと健やかな眠りに入る)それで昨日は久しぶりにビールを飲んだ。暖かくなってきたので美味しい。


最近、西欧のバタくさい作品を続けて読んでいたら、むしょうに日本文学がなつかしくなった。何が読みたいかなぁと考えると、もう文句なしに夏目漱石。三島由紀夫ほど絢爛でなく、谷崎潤一郎の一段上から眺めるような玲瓏さがなく、森鴎外にはないまろやかな艶っぽさがあって、晩秋の景色のように落ち着いた(でも枯れてない)味わい。


わびしい、鉛いろの雨の日に、とぼとぼ歩いていて、はっとするほどの美人とすれ違ったときの気持ちを取り上げたエピソードがよかった。その美人は、大塚楠緒さん。漱石が有名な「あるほどの菊投げ入れよ棺の中」を詠んだ人である。それに、人は誰でも体の中に爆弾のようなものを抱えているという、病み上がりに書いた死への来し方の一筆。言葉の表層だけをおっていた子ども時代に比べて、より深い共感が加わるのも、読み直す楽しみのひとつだと思う。