WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『繻子の靴』(著者:ポール・クローデル 訳:渡辺 守章)

2011-10-30 19:53:55 | 本と雑誌
繻子の靴 (上) (岩波文庫) 繻子の靴 (上) (岩波文庫)
価格:¥ 987(税込)
発売日:2005-10-14

今まで戯曲は苦手で、シラノ・ド・ベルジュラックがとても好きなのにどうしても読めなかった私、初めて最後まで読み通せた。ちょっとした達成感。豊富な注釈が巻末にのっているけれど、いちいち開いているとリズムが崩れるので無視し、再読時に読み直すことにする。


ロダンとの破局、創作活動における理想と現実の苦しみで精神を病んだ彫刻家、カミーユ・クローデル。姉弟は同じように、現実とそうでないものの線を踏みこえた後、姉は狂気に、弟は芸術の翼に抱きとめられて、スケールの大きい作品をいくつも残す。マラルメやメーテルランクに衝撃を与えた処女作の「黄金の頭」から、エリート外交官として世界中を飛び回る間に書かれたスケッチ、詩篇、芸術論、膨大な文章。クローデル手帳の「知性に理解されるようになった息を詩句と呼ぶ」なんて、ちょっとはすにかまえたアルチュール・ランボーのようだ。


まるで栄養源のように、訪れた地、ギリシア、アフリカから中国まで、東西のありとあらゆる芸術を取り込んで、それが昇華された、疾走するドラマと崇高から道化まで飽きさせない台詞まわし。2日目第14場、ちょうど物語の中間にあたる「月」は特に凄惨な美しさである。これは珍しくフランス語で読んでみたくなる。