WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『東京青年』(著者:片岡 義男)

2018-03-11 17:59:57 | 本と雑誌

春になった途端、冬眠から覚めた動物みたいに食欲が半端ない。この前も美術館の後に寄った神保町のカレー専門店、どれもおいしそうでひとつに決めきれずハーフ&ハーフで頼み、食べたら確かにおいしくて、1.5人前くらいの量なのにさらにごはんをおかわり。一緒に行った人が「そんなに食べきれるのか」という目で見ている前で、つけあわせのサラダまで残さずぺろっと完食。これだけ食べてまた食べたいと思わせるのは、さすが神保町の名店である。

カレーも良かったがこの日見に行った絵も素晴らしかった。竹橋の国立近代美術館は、いい展示をやるのにそんなに混んでいない穴場。都内の大きな美術館の企画展というと、たいてい入場に待たされること1時間、そこを我慢して入っても混雑してろくに見えない場合が多いのに、知る人ぞ知る存在なのかしずかに落ち着いて鑑賞を楽しめる。お目当ては熊谷守一展。この人は100歳近くの生涯でたくさんの優れた作品を残した画家なのだが、同じモチーフを何度も構想をあたためながら繰り返し描き、そのどれもが何かしら違って新しい点があるというのは本当にすごいことだ。

色の選び方と面積のとりかた、レイアウトが超モダンで、今のパッケージデザインに使ったらきっと相当にお洒落な花や果物。床や梁の上でのんきそうに寝そべる猫は、昭和33年、36年、37年、40年と何度も取り上げられ、同じスケッチからアレンジを変えて仕上げられている。過去から現在、未来へと点と線で行き来する技法。読んでいたこの本の作風とみょうに重なって印象的。1950年代の東京、何人もの年齢の異なる美女との恋愛で成長し、センスのいい物書きとしての片鱗を見せていく主人公のヨシオは、あ、著者と同じ名前かと最後のほうで気づく。片岡義男のこういうところも好きだなぁ。