WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『夢のように日は過ぎて』(著者:田辺 聖子)

2012-02-26 16:31:53 | 本と雑誌
夢のように日は過ぎて (新潮文庫) 夢のように日は過ぎて (新潮文庫)
価格:¥ 460(税込)
発売日:1992-11

爪のお手入れをサロンでやってもらうようになったのは24歳のとき。新宿の近くに住んでいたので、伊勢丹の地下のオシャレな雑貨フロアの一角を占めていたアキコというお店によく行った。ここは表参道に本店があって技術もセンスも良い。土曜の午後、同じフロアにあったカフェで美味しいガレットとカフェオレを頂いたあと、1時間半くらいゆったりと爪をけずったりネイルを塗ってもらって過ごす。髪や爪や肌へのケアに時間をかけるのは、女性の特権だ。


この人の書く女性はほんとにリアルで、好き。現実的で胆がすわっていて、それに比して根性なし、器が小さい、働かない、自分のことしか考えてない・・という、とりわけダメダメな男性陣とのショートストーリー(笑)。周囲を見ても、よく気がついて人に配慮ができて、仕事への責任感が強いのは女性が多い。両性それぞれ長短あるけれども、私はやっぱり女性に生まれてきてよかったなと思うのである。


ところでこの前、新宿に行く用事があってついでに寄ってみたら、伊勢丹の地下はすっかり様変わり。あのガレット、素敵においしかったのになぁ。十年一日のごとく変わらないのは紀伊国屋書店とカレーの中村屋。でもお店が変わっても新宿のにぎやかで猥雑それでもセンスのよい不思議な雰囲気はそのまま。田辺聖子さんの小説のよう。


『文章読本』(著者:谷崎 潤一郎)

2012-02-25 15:51:32 | 本と雑誌
文章読本 (中公文庫) 文章読本 (中公文庫)
価格:¥ 600(税込)
発売日:1996-02-18

土曜の午前中は、金曜までの疲れをリセットする切り替え時間。単に掃除タイムなのだが、カーテンを大きく開けて掃除機をかけて拭いて、最後にバスルームをすみずみまで洗って、リネン類をまとめて洗濯機にかけると、爽やかなすっきりした気持ちになる。オンとオフの切り替えが家の掃除、ハードワークでいかに疲れていようが、毎週欠かしたことがない。


掃除を終えて、ランチから夕食までの間が読書タイム。これは永井荷風に絶賛された日本文壇史最高の大作家のことばについての本。フランス語の明晰さをこよなく愛していたが、我が大事な母国語の素晴らしさについても再発見。異なる意味合いごとに異なる単語をもつ西洋語と異なり、1つの言葉にいろいろな意味を持たせる日本語は、表現のうしろにあって語られないものを奥深く想像させる。寡黙であって叙情豊かな日本人の国民性は、その言語そのものであると。


昭和九年の刊だから、氏は50歳前。言語感覚のセンスの鋭さは天性で生まれつきの才能だが、たとえ良くなくても、努力次第である程度は良くすることができる、なんて読者をまるで子供のように噛んでふくめるような説明口調も味のある。日本語の在り方について、夢のように素敵な本である。


『女ざかり(上)』(著者:ボーヴォワール 訳:朝吹 登水子/二宮 フサ)

2012-02-19 16:18:04 | 本と雑誌
女ざかり 上―ある女の回想 女ざかり 上―ある女の回想
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:1963-05

先日、パスポートを更新しに行って、写真を見て自分のあまりの疲れように反省しきり。キリキリ仕事をしていると充実するので心にはたくさんの養分がいきわたるが、体とお肌にはとても悪い。ちょっとセーブして、時間をとって美容を心がけて、たくさん栄養をあげなくては。


楽しむことのバランスのとりかたは、この人がお手本で、少女時代からとても影響を受けたボーヴォワール。原題は la force de l'age 、人生における最盛期、みたいなニュアンス。ハードカバー、細かい字がびっしりで300ページ以上、上・下(というか、自叙伝4部作で全8冊)という膨大な作品なので、昨年、気力と体力を整えて(笑)いざ読み始めた。


カミュやフォークナーが新刊で出版されている、処女作「招かれた女」にいたるまでの構想や失敗作、サルトルの「嘔吐」が書き上げられ、出版される過程がリアルタイムで記されている!・・仏文学大好き、ミーハーな私は思いっきり興奮しながら読んだ。だって、知的に豊穣な1930年代のフランス、プレヴェールのシャンソン、マルクス兄弟の映画、アトリエ座、シュールレアリストの作品、ぜんぶ今そこにあるのだもの。興奮せずにいられようか。


『葬送(第一部上)』(著者:平野 啓一郎)

2012-02-18 15:30:10 | 本と雑誌
葬送〈第1部(上)〉 (新潮文庫) 葬送〈第1部(上)〉 (新潮文庫)
価格:¥ 540(税込)
発売日:2005-07-29

ここずっと忙しい日々が続き、食事と睡眠が最大の快楽。眠るときひどく幸せで、ベッドから起きるときはなんとなく裏切られたような気分(笑)  ひどい鼻風邪、寝不足、肩が痛み、お肌があれるばかりか、最近心臓が圧迫されるように重く、それでも大きな案件いくつかに道すじがついてきたせいか、今朝は少し落ち着いた。辻井伸行くんのアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ(1830年代のショパン)を聴きながら穏やかに朝食後のお皿洗い。


ピアノは白黒の鍵盤と3本のペダルで、それこそどんな表現であろうと、かすかに聴きとれるくらいの震えるピアニシモも、バーンと強烈に叩きつけるような激しい音も、自在に作りだせる最高の楽器。弾くのも聴くのも大好き。ひとつマスターすると、夢中になって、すぐに次のステップに入りたくなる。一生続けたいなと思う。


「葬送」は、私の大好きなピアノの神様ショパンと、19世紀フランスの女流作家ジョルジュ・サンドとの恋愛を描いた平野啓一郎氏の力作。長編だが昨秋から少しずつ読み始めた。ショパンの友人、天才ドラクロワが登場し、絵画制作への陶酔と悩みの行きつ戻りつが、リアリティありよく書けている。