グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー) 価格:¥ 861(税込) 発売日:2006-11 |
8月最後の暑い一日。今年の夏は暑かったなぁ。20代のころ、8月が終わると大事なものを逃したようでさみしかったけれど、大人になった今では、秋を迎えるのがなんだかワクワクするような気持ち。夏が終わったあとに迎える朝の、ひんやり透明で憂いを含んだような空気がなつかしくてたまらない。それとも日々の酷暑に、あまり無理のきかない体がバテているのかしら。
レオナルド・ディカプリオ、「ギルバート・グレイプ」のころはデリケートで繊細な少年だったのに、あっという間にハリウッドの洗礼を受けて、ふてぶてしく強靭な面相に変わってしまったのを残念に思っていたけれど、このギャツビーはいい、とてもいい。違法ビジネスで巨額をかせぎ、何がきてもビクともしなさそうな成金ジェントルマン、でも本当は、若いころに出会った令嬢をいちずに想い続ける、子どものようなハートの男性。顔もタキシード姿も役柄にしっくりハマッて、近年にない当たり役だ。
映画がよかったので、まっすぐに原作を買って読んだ。フィッツジェラルド作というより村上春樹作みたい。翻訳したくてたまらくて、人生の最後にとっておいたと明言するくらいだから、くりかえしくりかえし読んで、もうきっと言葉が、体を流れる血液の一部になってしまっているんだろうな。この物語の佳さをわかるのは成熟した大人だけ、切ない夢の残照が行間からふんわりとたちのぼってくるような、名訳である。