WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『グレート・ギャツビー』(著者:スコット・フィッツジェラルド 訳:村上 春樹)

2013-08-31 19:56:34 | 本と雑誌
グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)
価格:¥ 861(税込)
発売日:2006-11


8月最後の暑い一日。今年の夏は暑かったなぁ。20代のころ、8月が終わると大事なものを逃したようでさみしかったけれど、大人になった今では、秋を迎えるのがなんだかワクワクするような気持ち。夏が終わったあとに迎える朝の、ひんやり透明で憂いを含んだような空気がなつかしくてたまらない。それとも日々の酷暑に、あまり無理のきかない体がバテているのかしら。



レオナルド・ディカプリオ、「ギルバート・グレイプ」のころはデリケートで繊細な少年だったのに、あっという間にハリウッドの洗礼を受けて、ふてぶてしく強靭な面相に変わってしまったのを残念に思っていたけれど、このギャツビーはいい、とてもいい。違法ビジネスで巨額をかせぎ、何がきてもビクともしなさそうな成金ジェントルマン、でも本当は、若いころに出会った令嬢をいちずに想い続ける、子どものようなハートの男性。顔もタキシード姿も役柄にしっくりハマッて、近年にない当たり役だ。



映画がよかったので、まっすぐに原作を買って読んだ。フィッツジェラルド作というより村上春樹作みたい。翻訳したくてたまらくて、人生の最後にとっておいたと明言するくらいだから、くりかえしくりかえし読んで、もうきっと言葉が、体を流れる血液の一部になってしまっているんだろうな。この物語の佳さをわかるのは成熟した大人だけ、切ない夢の残照が行間からふんわりとたちのぼってくるような、名訳である。





『風立ちぬ』(著者:堀 辰雄)

2013-08-18 14:12:13 | 本と雑誌
風立ちぬ・美しい村 (岩波文庫 緑 89-1)風立ちぬ・美しい村 (岩波文庫 緑 89-1)
価格:¥ 525(税込)
発売日:1981-02


昨晩、大門駅近くのバルで、大好きな兄嫁とガールズトークしながら飲んでいたら、楽しくてなんと5時間近くも経過。ワインを飲みすぎて、今日は軽い二日酔いの朝。よろよろしながら起きて水を飲み、ここで会社に行く日だったらつらかったなぁと、ベッドに倒れこんで反省。夏はことのほかお酒がおいしくて、汗で水分といっしょにアルコールも発散するせいか、いつも以上に飲める(気がする)。



ポール・ヴァレリーのすてきに美しい詩句 <Le vent se lève, il faut tenter de vivre>を「風立ちぬ、いざ生きめやも」とした抜群のセンス。重度の肺結核患者で、いつ死ぬかわからない「節子」との隔離された二人きりの短くて濃い時間。この充実した精神生活をなんと言うのか、太平洋戦争末期に予備学生の99%が愛読したというのもうなずける。爛熟さと清潔感がみごとに美しさの均衡を保ち、生き難しを生きてみようと軽くつぶやく声が聞こえるよう、熱を帯びて高く茂った草のあいだを夏の終わりの風が吹き抜けるのが、目に見えるよう。



私の酔い覚ましは熱いコーヒーかお味噌汁。午後になって本を読みながらコーヒーをカップに何杯も飲んでいたら、だんだん頭痛がおさまり、胃も落ち着き、復活してきた。




『白痴(上)』(著者:ドストエフスキー 訳:木村 浩)

2013-08-03 13:55:23 | 本と雑誌
白痴 (上巻) (新潮文庫)白痴 (上巻) (新潮文庫)
価格:¥ 935(税込)
発売日:2004-04


暑い夏の健康は食と睡眠から。野菜と果物をたくさん摂るようにし、ベッドのファブリックを買い換えた。新しい枕が、前に使っていたオーダーものよりはるかに素晴らしい。夜、頭をそっとのせると、もっちりした何ともいえない極上の感触で受けとめてくれて、朝までぐっすり眠れるようになった。



東山紀之さんが何かの番組で、入ったお風呂がお湯ではなく冷水だったらどうする?という質問に、「もし見ている人がいたら平気な顔でそのままゆっくり浸かっています」と答えていた。ええ恰好しいなどという次元を超越して、自分のイメージを完璧にコントロールするという美学、その徹底ぶり。ドストエフスキーやトルストイの小説を読むと、真逆なのでいつも思い出してしまう。



登場人物がみな自制のきかない愛すべきキャラクター。突然キレて怒鳴り、泣くわめく、エキセントリックな行動に出る。お国柄、肉と乳製品ばっかり食べてるから?それともロシアでは睡眠が足りないのか?感情の起伏や欲望を自制するのが心得とされてきた同時代、明治・大正の日本人は、辞書をひきひき読みながらさぞアンビリーバボーな衝撃を受けただろう。でも最高におもしろい。「白痴」は特にドタバタと賢愚と愛憎の交錯するにぎやかな展開で、読むのがやめられない。