WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『ブラック・コーヒー』(著者:アガサ・クリスティー 訳:中村 妙子)

2013-07-22 21:52:32 | 本と雑誌
ブラック・コーヒー (小説版) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ブラック・コーヒー (小説版) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2004-09-16


日曜日の早朝、パリに行く支度が間に合わなくてうろたえる夢をみた。フライトが18時発で、まだお昼なのだが、パスポートがない。スーツケースに入れたものを全部ひっくり返し、あぁー!実家にあるんだ、どうしよう・・・と泣きそうになったところで目がさめた。夢は毎晩なにかしら見るけれど、変な夢。



それで今年の休暇はパリに行くことに決め、ベッドに寝っころがったままフランスのウェブサイトをiPhoneでチェックしていたら、安心したのか、また眠りにおちる。フロイトいわく、夢は無意識の閾値からこぼれた「気になっているもの」「抑圧されているもの」。夢を見ることで圧迫されていた精神のストレスが和らぐという。しかし、そんなにパリに行きたいのか、私。



フランスと全く関係ないけれど、前にシャーロック・ホームズの最新刊を読んだら、海外ミステリをむしょうに読みたくなって、何冊か買った。クリスティー、ルパン、パトリシア・ハイスミス。パリではカフェでひたすらミステリを読み、美術館を心ゆくまで楽しむ。待ち遠しい。




『新源氏物語(下)』(著者:田辺 聖子)

2013-07-20 17:00:44 | 本と雑誌
新源氏物語 (下) (新潮文庫)新源氏物語 (下) (新潮文庫)
価格:¥ 704(税込)
発売日:1984-05


今週は風が涼しく吹き、猛暑から解放されてほっと一息。耳鼻科でもらった薬がおわり、夜横になっても咳き込むこともなくなり、体調が万全になった。耳鼻科の先生に、炎症したのどにはバニラアイスが一番いいと言われてまとめ買いしていたため、夜帰宅するとワインの代わりにアイスクリームを食べるのが習慣に。たしかに冷たくて柔らかく、ゆったりした素朴な味に癒される。



千年前の日本は、熱を出すエアコン室外機も、排気ガスを出す自動車もなかったからもっと涼しかったのだろうけれど、むっとする湿気のたかい夏に何枚も重ねた着物、身長より長い髪はさぞかしつらかったに違いない。冷房28度に設定して快適な部屋で、シャワーを浴びてアイスをほおばりながら読書でもしていると、なんだか先人に悪いような気になってくる。



最終巻、田辺源氏は人の感情の起伏や陰影を優雅にくるんでいるところが絶妙。最愛の紫の上が亡くなり、1年も悲しみの夢うつつに涙にくれて過ごしたあと、出家を決意する際の「もののあわれとは単に恋や愛から生まれるものではなく、その人といかに広く深く、人生でかかわりあったかをいうのだよ」、これが長い長い物語のなかでいちばんに作者の想いの凝縮された言葉であろう。




『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(著者:入山 章栄)

2013-07-15 19:37:49 | 本と雑誌
世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア世界の経営学者はいま何を考えているのか
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2012-11-13


だいぶ体調がよくなったので、外の風にあたりたくなり、三連休の最終日は散歩がてら六本木へ。私はふだんヤフーに打ち合わせに行くたび、このミッドタウン界隈で働く人たちをうらやましいなぁと思うのだが、おいしいもの、いいものを扱うお店がすごく多い。引っ越しするなら新宿か六本木に、電車一本で行けるところがよい。



中でも必ず寄るのが、茅乃舎。ここの無添加だしとドレッシングは最高で、私も教えてもらってハマり、さらに私が教えた人たちもハマっている。野菜のおだしはロールキャベツやシチュー、リゾットに使うだけでなく、袋をやぶってお湯を注ぐだけで、まろやかでこくのある滋養満点なコンソメスープに。6月の忙しい時期にこれをきらして買いに行く時間もなく、かなり切ない思いをした。



お昼を、ちょっとずついろんなカレーやスパイシーなインド料理が食べられるビュッフェ、ニルヴァーナでゆっくり時間をかけながら、ニューヨーク州立大学で活躍されている経営学者、入山教授の本を読む。「誰が何を知っているか」をチーム全員が知っている組織こそ強いという、トランザクティブ・メモリー。(多様性はなぜ組織を強くするかという理由のひとつ) 発表される学術論文に100パーセント、「理論」という言葉が使われている学問は経営学だけ。(数字よりかは言葉をこねる学問である) 統計学で平均傾向を分析するだけでは、ケースすべきGoogleやAppleのような企業の強い理由はわからない。(統計値から外れるから) 
入山教授のように、本場アメリカで活躍し、経営の複雑系をわかりやすく平易に説明される日本人学者は少ない。ちょっと残念なことである。




『英国一家、日本を食べる』(著者:マイケル・ブース 訳:寺西 のぶ子)

2013-07-14 16:28:01 | 本と雑誌
英国一家、日本を食べる英国一家、日本を食べる
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2013-04-09


暑い日々が続く。ラーメン、カレー、お好み焼き、焼き肉、ハンバーグ、夏はとくに大好きなB級の食べものがこよなく美味しい。先週、熱を出してから耳鼻科の先生に「お酒とバスタブにつかること、風にあたることは絶対に厳禁」と言われてしまい、早く治らないかな。あつあつのお好み焼きを前にして、ビールが飲めないくらいつらいことはない。



ゆっくり料理する時間のないハードワーカーが多く住む東京は、江戸から続く歴史的な外食産業のすばらしき優秀さ。清潔で広いレストラン、豊富な旬の食材、繊細で舌が喜ぶおいしい味付けと見た目の美しさ、一部のお店ではなく、どこも普通にその水準で、都市の中にそういうお店が何軒あるかで測れば、ダントツの世界一であろう。



この著者、「行くぞ!」と思いたって家族全員を引き連れて地球の反対側、ニッポンに来てしまうところがすごい。そもそもお金はどうするの?食費はもちろんですが3か月も物価の高い日本を食べ歩く、しかも北海道から沖縄まで旅する交通費、滞在費あわせて半端ない金額のはず(笑)。これは並のライターではないと思いきや、ひねったセンスのよい毒舌に、そこらの日本人よりもよっぽど深く、食文化の神髄をとらえる鋭い洞察力、行く先々であれもこれもそれもとグングンおもしろい話を引き出してしまう取材力。さすがプロ。読むと日本の料理店をもっと好きになる。




『ペスト』(著者:アルベール・カミュ 訳:宮崎 嶺雄)

2013-07-07 18:43:53 | 本と雑誌
ペスト (新潮文庫)ペスト (新潮文庫)
価格:¥ 788(税込)
発売日:1969-11-03


例年より早い梅雨あけ。と同時に気温がぐんぐん上昇し、今日など海で風に吹かれてビールを飲んだらさぞかし気持ちよさそうな夏日。と思うがまだ体力なく、琥珀色の雲がかかるきれいな空をバルコニーから眺めながら、ポカリスエットで我慢。体調がよかったら朝ここしばらくさぼっていたジョギングをしたかったのに、ぜんぜん無理で、しかしピアノを弾ける程度には回復した。打鍵練習も忙しさにかまけて久しぶりで、なかなか指が動かない。



静かにしているため、うとうとしながら読書が進み、カミュの大ベストセラーを読み終わる。思わずWikiで「腺ペスト」「肺ペスト」「黒死病」などひととおり調べてしまったが、ペスト菌ってまだ絶滅していないんだ。この小説の時代設定ではまだ抗生物質がないという設定か。ほんの小さな子供まで絶叫しながら死を迎える病気との闘いに、神経をすり減らす疲れきった医師と、看護に協力し最後まで壮絶な勇気を見せる旅行者が、あたたかい秋の夜の海でふたり一緒に泳ぐシーンが印象的。



ペストの悪いわく、追放と別離であると。それは伝染病の発生で街ごと閉鎖された物理的な、断ち切られた人間関係だけでなく、あらゆる人間らしさからの追放と別離。日々繰り返し続く平和でおだやかな、習慣や思考や行動からの暴力的な遮断と、それがもたらす非人間的な諦め。観念論が読みやすく頭に入ってくるのは、カミュ独特の静謐で美しい筆致だからだけど、それだけにとてもこわい。「異邦人」よりクレイジーで恐ろしい。