WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『歴史の使い方』(著者:堺屋 太一)

2010-09-20 20:08:50 | 本と雑誌

歴史の使い方 (日経ビジネス人文庫 グリーン さ 3-6) 歴史の使い方 (日経ビジネス人文庫 グリーン さ 3-6)
価格:¥ 750(税込)
発売日:2010-01-06

人の生きた時間が長く積み重なると、「歴史」として学ぶに足る貴重な価値を持つ、というのはすごいこと。


小学校にあがる前、兄が図書館で借りてきた子ども向けの歴史の本に心を奪われた。シュリーマンのトロイ発掘についての本。古代都市が何千年もたってから精巧な姿をあらわすなんて、誰もが創作と思っていたトロイア戦争が実際にあった話なんて、なんて壮大なんだろう。何度も繰り返して読み、その後も頼んで借りてきてもらった。小学校に入ってから、これであの本が好きなときに読めると思って嬉しかったことをおぼえている。


古い遺跡を見て、何十世代もの前の人が、その足で踏みその指で触れていたと思うと、なんだか身震いするような感じがしないだろうか。地球上で私たちの呼吸する大気の質ですら、その当時とはすでに違うというのに。その時代の人たちが何を思っていたのか知りたいと思う。


ピラミッドが建造されたのは、プラトンの時代から2200年も前で、エジプト古王朝には奴隷という身分階級はなく、大勢の市民がボランティアとして自発的に参加した。ピラミッド作りは奴隷の血と涙のしみこんだ陰惨な苦役の成果ではなくて、れっきとしたシステマチックな社会公共事業だったのだ。こんなことがわかるのもおもしろい。


『海辺のカフカ(下)』(著者:村上 春樹)

2010-09-19 19:20:25 | 本と雑誌
海辺のカフカ (下) (新潮文庫) 海辺のカフカ (下) (新潮文庫)
価格:¥ 780(税込)
発売日:2005-02-28

村上春樹の作品を読んでいる途中、"Nemo ante mortem beatus" という言葉をよく思い浮かべる。
この人の世界に共通するのは、潮の満ち引きのように変わらない距離と間隔で繰り返し語られる、自己と他者の、そしてまた、こころと、それを包む体とのメタフィジカルな関わり方。それに、唯一と思う人の記憶の中にいつまでも残り続けることを究極の望みとするはげしい情熱である。誰も死ぬまでは幸福ではない、ということ。

ソフォクレスの描くオイディプスの運命(父を殺し、母を娶る)を背負った主人公の「僕」を、たどり着いた先の高松市でかくまい、助けてくれる青年がいう、「外殻と本質を逆に考えれば、僕らの存在の意味はもっとわかりやすくなるんじゃないか」 


たしかに、体の器官を通じて間接的にしかあらわれないために、人類史上最も多く考察の対象となってきた精神の中核が、裏返しにくるりと誰の目にも見える形になれば、きっともっと多くの答えがクリアーになる。でも読んだ時期、ものごとを掴む心象の広さによっていく通りもの解釈ができるこういう小説は、本質がうす暗い中に隠れているからこそこんなに楽しめるのだろう。昭和30年代以降の作家では、なかなか村上春樹のような人は少ない。


『ピアニストという蛮族がいる』(著者:中村 紘子)

2010-09-11 19:40:25 | 本と雑誌
ピアニストという蛮族がいる (中公文庫) ピアニストという蛮族がいる (中公文庫)
価格:¥ 800(税込)
発売日:2009-12-22

中村紘子さんのエッセイがおもしろくて2冊目。これは古今東西のピアニストの話で、ホロヴィッツに始まりミケランジェリに終わる。ボキャブラリーの豊かさと、情報の多さ(この調査量!巻末の参考文献は数十冊も)がすごい。


先週、ちょうど50曲目の練習曲を弾き終えた。


右手で高音部(目は五線譜のト音記号のほうを読む)を、左手で低音部(ヘ音記号を読む)を弾く。同じ五線の位置にある音符が、ト音とヘ音ではもちろん違う(たとえば、ヘ音でベースになる「ド」は、ト音で「ラ」)ので、譜読みに慣れない最初の頃は、両手を合わせる段階でコンフューズしてしまって大変だった。レッスンを受けている先生もコワくて(笑)、間違えると、隣で視線が氷点下になるのが分かる。(たまに、露骨にふーっとため息をつかれる。笑)


でも、練習してレッスンを受けてまた練習して・・・という繰り返しが嫌になったことは一度もなく、弾くと心が落ち着いたり高揚したりするのは、やっぱり好きな証拠。しかもこの本によると、ひと昔前の日本のピアノの先生は、生徒が弾いているのに鍵盤のふたをバンとしめたり(ヒドイ・・・)、手が腫れるまでバシバシ叩いたりと、恐ろしいスパルタ教育で、読んでからは自分の先生が忍耐力あふれる超優しい人だとわかってきました(笑)。ピアノの楽しみが広がる本。


『悲しき熱帯Ⅰ』(著者:クロード・レヴィ=ストロース 訳:川田 順造)

2010-09-05 19:36:34 | 本と雑誌
悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス) 悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)
価格:¥ 1,523(税込)
発売日:2001-04

読みたいと思ってからかなり時間がたってしまった。最初、民族研究で過ごした奥地での滞在記かと思ったら、ロマンチックな美しい詩。原書で読めば特にそうだろう。記憶のはしからはしへと行きつ戻りつする、文明の根付きへの考察と、克明な描写。特に私が好きなのは、著者がブラジル行きの船から見た壮大な夕暮れを賛美する「日没」の章。空と光と水の一瞬ごとに異なる美しさを正確に記そうという精緻な表現が素晴らしい。


Son style est comme vers sempiternel. Un beau ruisseau de la métaphore serpente à travers la prose, temps disparaît derrière une série d'événement imprévu. Bien que ce soit difficile en japonais, cette analyse reveuse mérite d'être lu.


『アリババ帝国』 (著者:張 剛 訳:永井 麻生子ほか)

2010-09-04 19:15:50 | 本と雑誌
アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦 アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-07-09

会社の投資先であり、家族が日本でのスタートアップにかかわっていたのに、実はあまりよく知らなかったな、と思って、六本木で食事した帰りに購入。帰宅してジャック・マーについての印象を聞いてみると、「小柄な人」との答え。(それだけ?)と思っていたら、「頭もいいよ」とのこと。そりゃそうだ(笑)


1999年、18人でスタートしたアリババは、2007年の香港での上場時、発行額の192%もの終値をつけ、時価総額260億ドルで中国インターネット企業のナンバーワンに躍り出る。しかし巨額の資金を手にした当日、ジャック・マーは浮かれるどころか、幹部を集めて「冬の時代がやってくる。備えなければ」と危機宣言するのだ。たえず先行きに気をくばり、試行錯誤しつつ、でも何が企業経営に必要かを熟知して大きな決断のタイミングを外さない、経営者の人間らしい側面も読むことができる。


この人のスピーチのうまさは有名で、名演説といわれている幾つかが収録されている。「積極的でも消極的でも危機は降りかかってくる」「忙しい時にこそ勉強」「社員の給料を上げるべきかは外部の経済情勢とは関係ない」 確かに。