WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『六本指のゴルトベルク』(著者:青柳 いづみこ)

2012-10-21 17:07:14 | 本と雑誌
六本指のゴルトベルク (中公文庫) 六本指のゴルトベルク (中公文庫)
価格:¥ 740(税込)
発売日:2012-08-23

鍵盤に触れる指の力を強くするために、ピアノの先生から教わったエクササイズ。机でもなんでも、硬いものの上で指先をたて、関節を曲げて、その支点だけで1分間、腕全体を支える。他の指や肩の力はいれてはいけない。これを指ぜんぶで繰り返す。青柳いづみこさんが書いている中で見つけたそう。


簡単そうだが実際には意外にハードで、最初のころは上腕が筋肉痛になるほど。私はバスタイムに、浴槽に大理石をはってあるので、そのふちを使って練習しているけれど、先生は空いた時間さえあれば場所を選ばず何回も何回も繰り返している。「だって少しでもいい音を出したいじゃない?」凄いです、先生。たしかにこの効果たるや絶大で、音の一つひとつが力強く、はっきり際立ってくる。


それで1冊読んでみた。音楽に造詣の深いミステリーや評伝が30話、すごい読書家である。中でも好きなのは、演奏家が、聴衆との対話で自分の中にあるいちばんいいものを解き放つ場というコンサートの定義。いいなぁ、私もショパンやベートーヴェンやグールドが人前で弾いていた時代に生まれたかった。いや、この人や辻井くんやアルゲリッチの演奏を聴けるのだから幸運なのか。中で紹介される本を次々に手にとってみたくなる、いいエッセイ。


『斜陽』(著者:太宰 治)

2012-10-20 15:35:25 | 本と雑誌
斜陽 (新潮文庫) 斜陽 (新潮文庫)
価格:¥ 357(税込)
発売日:2003-05

秋の朝、会社に行くのに、キンモクセイの香りの中を歩いてうっとり甘い気分になる。いい季節だなぁ。今日はしばらくぶりに完全オフ、洗濯機を4回まわし、夏の服をまとめてクリーニングに出し、クロゼットの中を入れ替えた。やたら忙しかった夏にひと区切り、私はリセットが大好き。

本屋でふと読みたくなって、太宰治の本を3冊買う。まずは小学生のとき読んだ「斜陽」。氷雨のふる寒い冬の夕方、ストーブにあたりながら、ひどく暗い話に悲しくなったのをよくおぼえている。唯一こころを惹かれたのは、有名な冒頭の、頭をしゃんと起こして口に運ぶお母さまの優雅なスプーンの動き。それから終わりまで、ピアノの鍵盤を、右から順にひとつずつキイを下降させていくような暗さに、二度と手にとらなかった。

それがびっくりしたのは、大人になってから読み返すと、どこが暗いと思ったのか、すてきに濃厚な甘い物語である。文中の3通のラブレターの、胸に虹がかかるあたりなんて、文章がキラキラ輝いている。太宰という人は心中未遂を繰り返していたし、根っからのロマンチストだったのではないだろうか。構成といい表現といい完璧。