WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『帰ってきたヒトラー(上)(下)』(著者:ティムール・ヴェルメシュ 訳:森内 薫)

2016-12-29 20:16:00 | 本と雑誌

お正月に見たスター・ウォーズも夏のX-Menも良かったが、今年見た中で一番心に残った映画はDVDでの「黄金のアデーレ」(2015年・ドイツ)。クリムトが金箔をふんだんに使って描き上げた絢爛たる美女、アデーレ・バウアーの肖像画を取り返そうと、老婦人がオーストリア政府を相手に法廷で戦う筋書き。この絵は往時、ユダヤ人の富裕な実業家の家にナチスが踏み込み、他の美術品や楽器とともに没収された。人間的なもの、美しいものを平気で踏みにじる冷酷さや、集団的狂気がヨーロッパを席巻していく時代の雰囲気をよく伝えている。ヘレン・ミレンの演技が指先一本に至るまで神経が行き届き、完璧で素晴らしい。

その元凶が、もしこの21世紀に生きていたら?という大ベストセラー。独裁、残虐、非人道といった誰もが思い浮かべるヒトラーの代名詞と、語りが本人の一人称ゆえに、自分のやったことを全く悪いと思っていないある意味とっても純粋な眼差し。それに、数十年ぶりに生き返ってきたら何もかもが激変している環境と感覚のズレという二重のギャップが、いやいや非常によくできている。ティムール・ヴェルメシュの秀逸ななりきり口調に、かなり早い段階(クリーニング屋にナチスの制服を出しに行くところ)で爆笑の最初のピークが到来。心して読まないと危ない。

あっという間に年末になってしまったが、今年やろうと思っていたこと、夏の沖縄でラウンドする、立ち泳ぎを上達させるなどの中に、十和田美術館で現代アートを見るという項目があった。3月までは仕事でひどくばたついて気持ちのゆとりがなく、それから盲腸、ひいた夏風邪が治らずと全体的にやりたいことが結構残ったままだったものの、これだけは心ゆくまで堪能。外観から受付に入るところがもう複合的なアートで、階段から屋上まで全部が芸術品。一つひとつがとても有名な展示で、静謐さのなかにわっと度肝を抜かれる世界があり、あまりにも集中して少し疲れて目を休めるためにふと庭の木に目を移すと、これがまたオノ・ヨーコさんの作品である。私はもう人が多すぎる東京で絵を見ようと思わないが、この美術館は静かで美の極致、何度でも行きたい。


『11/22/63(上)(中)(下)』(著者:スティーヴン・キング 訳:白石 朗)

2016-12-24 16:59:50 | 本と雑誌

動かすと痛いばかりか、バリッ、ジャリジャリとあごの骨が粉砕されていくような音の恐怖に負けて、かかりつけの整体に行く。顎関節痛で口腔外科か、原因になった足の腱鞘炎で整形外科か、どちらに先に行ったらよいだろうかという私の話を、先生は眉間にシワ寄せて聞いていたが、「たぶん(行かなくて)大丈夫」…うそ、ほんとに?結構痛いですよ?…しかし、ほんとに施術開始からものの10分ほどで痛みが薄れだす。先生若いのにすごい技術力。速攻で効きますね、と真剣に感心したら、木戸さんの筋肉のつくりはだいたいわかってますからと神回答。この人がいれば将来、血迷ってトライアスロンやフルマラソンに挑戦する気を起こしても心配いらないかも。ズキズキしていた足も痛みが半減して、無事に仙台出張へ。

毎回、出張は日程をきっちきちに詰めこんでお昼の時間も慌ただしいが、17年ぶりになつかしい仙台は巨大なターミナル駅の周辺にありとあらゆるお店ができていて、すごい便利になっていた。仕事のあいまに食べた焼肉が超絶においしくて感動。チャンピオン最優秀賞レベルという仙台牛、お肉が甘いってこういう味!食べたあと脂が体に沁み渡るってこういうこと!しかも胃にまったくもたれない。若い頃だっていいお肉食べてたはずなのに、しみじみ良さがわかるのは今になってからである(笑)。

最近読み終わったこの本も、古き良きアメリカの牛肉のハンバーガーがジューシーでとっても美味しそう。過去につながっている時空の穴から1958年に行った男が、63年のケネディ暗殺を阻止しようと奮闘する。超常現象に、理不尽な暴力のどす黒さ、ページをめくる指が止まらなくなるストーリーの面白さはキングならではだが、今作は実は、ラブロマンスが隠れた伏線になっていて珍しい。いきなり怒涛のように立ち上がる美しいラストが思いっきり切なすぎて泣ける。

『パリに住むこと、生きること』(著者:雨宮 塔子)

2016-12-18 18:10:58 | 本と雑誌

先週末はおろしたてのスニーカーで鎌倉へ。北鎌倉の去来庵で絶品のビーフシチューで温まってから、ぶらぶらと歩いて建長寺、鶴ヶ岡八幡宮、足を伸ばして長谷寺にも。お庭の紅葉がきれい。長谷から江ノ電に乗ればよかったのだが、そこから何となく江ノ島まで歩いてしまった。曇り空を破って神々しい金色の光が射している海を眺めたり、遊歩道を走るランナーをよけながら話したりしているうちに、左足の甲が痛くなり、江ノ島のレストランでワインを飲む頃には、履きなれない靴に圧迫されてズキズキ。しまった、こんなに歩くならいつもの長時間歩行用のブーツを履いてくるんだった。

10年以上も前に冬のパリで厳寒に耐えかねて買ったプラダのアンクルブーツは、柔らかくて本当に履きやすく、もう1枚の皮膚のようにすっかり足に馴染んでいる。買った後、おいしいと評判の日本人パティシエのお店で一休みしたら、ふわっと舌でとろける抹茶チョコレートが今までにない素晴らしさだった。それがサダハル・アオキさん。奥さんの雨宮塔子さんのエッセイも良くて、記憶に残っていた。それからだいぶ時間が経って久しぶりに最新刊を読んたら、あれ、離婚したんだ。

最初はインテリアの本かと思ったら、ものすごい手間と愛情をかけて整えたアパルトマンを1年足らずで出ることになったり、次に見つかった理想の新居に落ち着いてすぐにまた日本に戻ることになったり、波乱万丈な人生である。書評では賛否両論だが、私はこの人の、内面と向き合うような正直で誠実な書き方やこだわりの徹底ぶりが好きだな。パリの賃貸おうち事情もおもしろい。

足の腱鞘炎、そのうち治るだろうと放置してガンガン仕事していたら、全身のバランスが崩れて肩の凝りがいつも以上に激しくなり、ついに週後半、右顎が顎関節痛になってしまった。ものを噛むと奥からギシギシと不気味な音がしてこわい。盲腸になかなか治らない夏風邪、そして年末はついにこれか(笑)