お正月に見たスター・ウォーズも夏のX-Menも良かったが、今年見た中で一番心に残った映画はDVDでの「黄金のアデーレ」(2015年・ドイツ)。クリムトが金箔をふんだんに使って描き上げた絢爛たる美女、アデーレ・バウアーの肖像画を取り返そうと、老婦人がオーストリア政府を相手に法廷で戦う筋書き。この絵は往時、ユダヤ人の富裕な実業家の家にナチスが踏み込み、他の美術品や楽器とともに没収された。人間的なもの、美しいものを平気で踏みにじる冷酷さや、集団的狂気がヨーロッパを席巻していく時代の雰囲気をよく伝えている。ヘレン・ミレンの演技が指先一本に至るまで神経が行き届き、完璧で素晴らしい。
その元凶が、もしこの21世紀に生きていたら?という大ベストセラー。独裁、残虐、非人道といった誰もが思い浮かべるヒトラーの代名詞と、語りが本人の一人称ゆえに、自分のやったことを全く悪いと思っていないある意味とっても純粋な眼差し。それに、数十年ぶりに生き返ってきたら何もかもが激変している環境と感覚のズレという二重のギャップが、いやいや非常によくできている。ティムール・ヴェルメシュの秀逸ななりきり口調に、かなり早い段階(クリーニング屋にナチスの制服を出しに行くところ)で爆笑の最初のピークが到来。心して読まないと危ない。
あっという間に年末になってしまったが、今年やろうと思っていたこと、夏の沖縄でラウンドする、立ち泳ぎを上達させるなどの中に、十和田美術館で現代アートを見るという項目があった。3月までは仕事でひどくばたついて気持ちのゆとりがなく、それから盲腸、ひいた夏風邪が治らずと全体的にやりたいことが結構残ったままだったものの、これだけは心ゆくまで堪能。外観から受付に入るところがもう複合的なアートで、階段から屋上まで全部が芸術品。一つひとつがとても有名な展示で、静謐さのなかにわっと度肝を抜かれる世界があり、あまりにも集中して少し疲れて目を休めるためにふと庭の木に目を移すと、これがまたオノ・ヨーコさんの作品である。私はもう人が多すぎる東京で絵を見ようと思わないが、この美術館は静かで美の極致、何度でも行きたい。