冷たい雨のぞぼふる中でも、土曜の渋谷は人でいっぱい。オーチャードホールに熊川哲也さんの3年ぶりの新作、「クレオパトラ」を観に行った。脚本・音楽ともイチから創られた完全オリジナルで、振付や楽曲のみごとさはもちろん、凝った舞台美術と衣装も完璧すぎてヤバイ。最高である。バランスのとれた美しさに見ながら何度もめまいがして、鳥肌がたつ。主演の浅川紫織がこれまたいい。しなやかな全身からしたたるような色気、振り幅の広い表情で、魅力的なクレオパトラを演じる。
子どものころに読んだシェイクスピアの「アントニーとクレオパトラ」のおぼろげな記憶によれば、最初カエサルで、次にアントニウスと、ローマの権力者を次々に篭絡する絶世の美女。さらにこの舞台では、弟のプトレマイオスと結婚してエジプトを共同統治しているという設定。うわ、短いあいだに3回も結婚したのか。女としてのパワーが半端ないなぁ。と思ったら、日本でもむかしは、そういうのが当たり前だったらしい。
今みたいに役所にきちんと届けを出して一緒に住むのと環境からして違い、古代から特に平安時代は、女性の住む屋敷に夫が一時的に通うスタイル。男女とも婚姻(というのかしら?)を繰り返し、通算10人以上も子がいるのは珍しくない。ゆえに母方で誰それの血筋をたどるとみんな結局どこかしらでつながっているという大らかさ、豊かさ。のっけから、壇ノ浦で滅んだと歴史で教わった平家は、女系図ベースでは滅亡などしていないどころか、長く脈々と子孫を残してめっちゃ繁栄というエピソードに引きこまれる。北条氏、源氏、徳川幕府と、さまざまな文学史学、参考文献収集に裏付けされた意外な歴史話が満載で、さらに新書なので読みやすい。