WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『女系図で見る驚きの日本史』(著者:大塚 ひかり)

2017-10-28 20:32:38 | 本と雑誌

冷たい雨のぞぼふる中でも、土曜の渋谷は人でいっぱい。オーチャードホールに熊川哲也さんの3年ぶりの新作、「クレオパトラ」を観に行った。脚本・音楽ともイチから創られた完全オリジナルで、振付や楽曲のみごとさはもちろん、凝った舞台美術と衣装も完璧すぎてヤバイ。最高である。バランスのとれた美しさに見ながら何度もめまいがして、鳥肌がたつ。主演の浅川紫織がこれまたいい。しなやかな全身からしたたるような色気、振り幅の広い表情で、魅力的なクレオパトラを演じる。

子どものころに読んだシェイクスピアの「アントニーとクレオパトラ」のおぼろげな記憶によれば、最初カエサルで、次にアントニウスと、ローマの権力者を次々に篭絡する絶世の美女。さらにこの舞台では、弟のプトレマイオスと結婚してエジプトを共同統治しているという設定。うわ、短いあいだに3回も結婚したのか。女としてのパワーが半端ないなぁ。と思ったら、日本でもむかしは、そういうのが当たり前だったらしい。

今みたいに役所にきちんと届けを出して一緒に住むのと環境からして違い、古代から特に平安時代は、女性の住む屋敷に夫が一時的に通うスタイル。男女とも婚姻(というのかしら?)を繰り返し、通算10人以上も子がいるのは珍しくない。ゆえに母方で誰それの血筋をたどるとみんな結局どこかしらでつながっているという大らかさ、豊かさ。のっけから、壇ノ浦で滅んだと歴史で教わった平家は、女系図ベースでは滅亡などしていないどころか、長く脈々と子孫を残してめっちゃ繁栄というエピソードに引きこまれる。北条氏、源氏、徳川幕府と、さまざまな文学史学、参考文献収集に裏付けされた意外な歴史話が満載で、さらに新書なので読みやすい。


『マルドゥック・スクランブル(1)~(3)』(著者:冲方 丁)

2017-10-09 20:03:26 | 本と雑誌

体調がリカバリし、演奏中しかもピアニシモのときに咳が止まらなくなったり呼吸困難に陥る恐れがなくなってきたので、好きな音楽のチケットをまとめておさえた。聴いていると別世界の扉をあけてくれるようなうつくしいクラシックが大好き。弦管・打楽器と数十人の指が作る音だけで壮大な叙事詩を表出させるオーケストラ。88の鍵でフル構成のオーケストラなみの音域を作ってしまうピアノ。それから、音色にのせた舞踏でステージに繊細な物語を立ち上げるバレエ。それ自体はシンプルな表現形態なのに、聴き手の心に視覚的効果まで招いてしまうのは、まさに芸術であろう。

本も同じで、小さいころから読書好き、こう大量の冊数を自分のなかに通過させていると、並べられた言葉とイマジネーションの蓄積からか読んでいるうちに自然とビジュアルが浮かんでくる。特にこのシリーズは半端なく、おもしろいだけじゃなく、SFとしてとても優れた作品。金属の鳥かごの中でゆっくり回る科学者の首、ブラックジャック・テーブルでの運命を賭けた真剣勝負に、皮膚に移植された電子の神経が銀色にメリメリと枝を吹いてくる少女、完璧な武器になるふわふわな優しい毛の金色のネズミ。

読む前からこれはハマりそうだと思って、3連休の予定をあけておいた。予想通り、一度ページをめくりはじめると止まらない。Kindleもさすがなもので、一巻読み終わるとすかさず次巻のタイトルを表示してくれるから、まんまとクリックして続けてしまう。掃除のあいまに読み、チキン・カチャトーラを煮込みながら読み、今日は伊勢丹に買い物に行ったあと、帰ってきて自宅近くの喫茶店で読んだ。私はここでよく同世代のマスターとカウンターごしの世間話をするのだが、あまりにも集中していたために、向こうも声をかけるのをはばかられたらしい。3冊読み終わって完全に虚脱状態。ああ、コーヒーがおいしい。


『リプリーをまねた少年』(著者:パトリシア・ハイスミス 訳:柿沼 瑛子)

2017-10-01 19:45:36 | 本と雑誌

今年は秋の訪れが早くて、9月の終わりから空気が澄んできた。空が高く、透き通った青に刷毛で描いたようなやさしい雲はもうすっかり秋、見上げるとどこからか金木犀のいい香りが漂ってくる。まだ朝晩のステロイドの吸入は続けているものの、結構なペースでジョギングしても酸欠で口をぱくぱくさせることはなくなった。この調子この調子と、体調を完全に元に戻すためワークライフバランスを維持。

時間に余裕ができるとなぜか読みたくなるのがリプリー・シリーズである。「太陽がいっぱい」で殺した友人の遺産に加えて、お金持ちの令嬢エロイーズと結婚しフランスの郊外で暮らすトムは、「高等遊民」という言葉がぴったり合う優雅な生活。毎作品ごとに抜き差しならぬ状況に陥って行き当たりばったりな殺人を犯し、それでも絶対つかまらず完全犯罪になってしまうのだが、今回は10年前の自分をみるような純粋な目をした少年が転がり込んできて・・・新装版は表紙の雰囲気もいい。

時間があるついでに、今までやろうやろうと思ってついのばしていた事に片端から手をつけている。自宅のリビングと寝室に新しく替えたカーテンがとても気に入って、ついでにベッドのファブリックやタオル類をカーテンの色にあうように買いなおした。私は小さいころから家の中をいじるのが大好き。兄の読んでいたメンズノンノでインテリアの特集があると、勝手にページを切り抜いてファイルに張り付け、ソファはこの色よりこっちのほうが合うとか、今思うと子どものくせにまったく失礼なディレクションをして楽しんでいた(笑)。二次元のクリッピングではなく実際に、部屋ごと自分の好きになる今のほうが楽しいけれども。休日は本も何時間でも読み放題だし、大人になるっていいなあ、としみじみ。